以前、亡くなる少し前にレコーディングされた”DROP ME OFF IN HARLEM”をUpした際、抱き合わせで紹介していますが、今回は単独でUpします。
KAMUCAと言えば、とうの昔からモード盤と相場が決まっていますが、相場ほど当てにならないものはありません。相場は思惑で動き客観性が希薄な場合もあり、コレがBESTです。同じ‘QUARTET’でも、こちらは、KAMUCAが癌で亡くなる前年、1976年に自費出版?に近い形でレコーディングされた作品で、恐らく、「遺作」となることを想定して録音したのだろう。何故ならば、‘RICHIE’ではなく正式な‘RICHARD’とクレジットされている。
もともとレスター系のテナー奏者だが、50年代後半、コルトレーンをかなり聴き込み、少なからず影響を受けている。だだ、カミュカは自分の奏法にしっかりと消化しているので、一聴しただけでは解らないかもしれません。M・ロウの味わい深いコード・ワークのよるサポートに乗って、カミュカはやや塩気を含んだ音色でそれは見事なソロを聴かせます。
KAMUCA自身が好きで録音したかった、と述べている作曲家C・ポーターの‘I Concentrate On You’から始まる本作は不思議な生命力に満ちている。でも、その生命力は若さ、或いは自信などから生まれるキラキラしたものとは違って、無我、無心といった精神から生ずるピュアなもの。「死期を悟った境地」など通り一遍の言葉では、到底、言い尽くせない何かが宿っている。とにかく、‘I Concentrate On You’のドライヴ感が利いたイマジネーション豊かなテナー、どうでしょう!「嵐が吹き荒れる運命に巻き込まれようと、トラブルの津波に襲われようと、私はあなたに夢中 ・・・・・」にグイグイと引き込まれてしまう。同曲の名演の一つではないでしょうか。H・マギーの”DUSTY BLUE”のヴァージョンと双璧ですね。
また、A-4の‘Say It Isn't So’ではテナーの澄んだ音色に心が奪われる。さりげなく吹くだけでこれだけの表現力はもう半端ではありません。「貴方がもう私を愛していないと皆が言うけれど、そんなことない、と言って・・・・・・」に対し、恰も「噂なんか気にしなくいいよ。オレはお前をずっと愛している、これからも・・・」と髪の毛を優しく愛撫するかのようなソロにゾクッとします。また、その後を受け、小躍りしたくなる喜びをグッと噛み締める乙女心を代弁するM・ロウのgも素晴らしい。ジャズという音楽しか表現できない展開です。
B面に移っても、KAMUCAのピュアなテナーは冴え渡り、ラスト・ナンバー、L・ヤングのフェイバリット・バラード(但し、レコーディングはしていないとの事)‘Tis Autumn’では、ハスキーなVocalまで聴かせます。最後に自分の肉声を記録しておきたかったかもしれません。ここでのKAMUCAのテナー、上手な表現ができませんが、俗ぽさがまったくなく、浮世離れした異端の世界を創出している。同曲のベスト・ヴァージョンです。
真のマニアから「不世出のテナーマン」と謳われる所以は、モード盤ではなく本作の存在があるからではないでしょうか。このアルバムは「知られざる名盤」の中でも横綱級だろう。
1977年7月22日、誕生日の前日にこの世を去った。享年46。大器晩成型(と思う)のKAMUCA、せめて、あと10年長生きしたら何枚も傑作を創ったでしょう。
なお、本作は後にコンコードから‘RICHIE’というタイトルで再発されています。ただ、ダサいカヴァが玉に瑕です。
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