本作はコルトレーンが急逝(1967年7月14日、肝臓癌)する5ヶ月前に録音されながら、1995年に初めて(1曲を除き)日の目を見た音源(輸入盤CD)。久し振りにコルトレーンのIMPULSE後期の一枚を聴いた。
得体の知れない何かがこちらに向かってだんだん近づいて来るような不気味を雰囲気をアリのdsが醸し出し、左チャンネルから、コルトレーンの魂のかたまりのようなテナーが低く、深く響き亘る。横っ腹に強烈なボデー・ブロウを叩き込まれた感じを受け、明るかった部屋がたちまち暗くなり、まるで60年代後半、伝説の「あの頃のジャズ喫茶」と化す。一気に11曲(オルタネイト・3曲含む)を聴き通す。そして、もう一度、聴き直す。本作には、後期コルトレーン・シンドロームに悩むジャズ・ファンが恐れるラジカルなプレイはかなり退いているけれど、コルトレーンの音楽自体が持つ密度の濃さにテンションは張りっ放し。中でも2曲目の”Sun Star”が素晴らしい。
印象的なカヴァの写真は「クル・セ・ママ」と同時の別ヴァージョンで、Chuck Stewartが担当している。David Wildが書いたライナー・ノーツに目を遣ると、本作に収録されている‘Offering(EXPESSIONで発表済)を除く新7曲は録音当時、タイトルを付けられず、リリースの際に付けられたそうです。読み流せば、何ともないが、チョット気になる。恐らく、この時点で、既にコルトレーンは死期を悟っていたのだろう。コルトレーンはインパルスと再契約した際、録音からリリースまでほぼ全権を得ているので録り溜めしていた可能性も高いです。
一休みをして更にもう一度、聴き通した。上手く表現出来ないがこのカヴァの様に深々とした前人未到の世界を粛々と突き進むコルトレーンの姿がはっきりと浮かび上がってくる。
当時「モダンジャズ界の黒い牽引車」と謳われた男の最後期の姿がここにある。こんな荘厳な演奏を耳にすると、しばらく他は何も聴けなくなる。この作品が録音された1967年2月15日はモダンジャズ・絶頂期の一日だった。そして、この種のJazzが当たり前の様にジャズ喫茶で流されていた「あの頃」は今振り返ると、もう二度と来ない凄い時代でした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます