今日(10月3日・月)、安部元首相の国葬に赤嶺県議会議長が参列したことに対して、県民61名がその費用を公金で支出することの差し止めを求める住民監査請求の陳述会が行われた。
午前中は請求人が陳述。私と島ぐるみ宗教者会議のTさんが、議長参列の違法・不当性について詳しく説明した(私の陳述書全文を末尾に掲載する)。
午後は、県議会事務局から事務局長と総務課長が、「議長の国葬参列のための費用は公金で支出する」と陳述した。
議会事務局の陳述に対して、4名の監査委員から質問が続いた。今まで、何度か監査請求の陳述会に参加したが、今回の監査委員の質問はかなり厳しいものだった。
「国葬は違憲・違法という請求人らの主張に対する見解は?」、「何故、参列すると回答してから、県議会各会派の意見を聞いたのか?」、「各会派に聞いた以上、議長は説明する義務があった。何故、議会に何の説明もないまま参列したのか?」
これに対して議会事務局長らは、「国葬の違憲・違法性については述べる立場にはない」、「議長が参加するかどうかについては4項目の参加基準があり、国の行事への参加も含まれている」、「社会通念上も認められる」、「監査請求書を議長が見られて県議会の皆さんの意見を聞きたいということとなった。その後、総合的に判断されて参列された」、事務局としては、議長の判断を尊重してサポートする他ない」と主張した。
国葬に対しては、これだけ多くの反対の声があがり、各地の弁護士会が反対声明を出していること、特に沖縄県知事が問題点を指摘して不参加しているのだから、「違憲・違法性については述べる立場にはない」、「社会通念上も認められる」というのは通用しない。
また議会事務局は、「議長の国葬参加費用は11万7120円、随行職員の参加費用は11万1390円」、「監査請求もされているが、できれば今週中には支払いたい」と述べ、監査委員の結論前にも公金を支出しようとしていることも許せない。
県議会事務局長らの陳述後、私が彼らの陳述内容の疑問点等について意見を述べた。特に、「沖縄では知事が国葬には問題があるとして、不参加を表明したこと」、「県議会議員の多数が、国葬参列に反対したこと」等を強調した。5日(水)までに、さらに補足した意見書を提出する。
監査委員は結論を出す前に、赤嶺県議会議長に対して、何故、国葬に参列したのかを問い質すべきであろう。
(今夕のQABニュースより)
(4名の監査委員)
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以下、私の陳述書を全文掲載する。
陳 述 書 北上田 毅
○私たちは、9月13日、沖縄県知事・沖縄県議会議長が、安倍元首相の国葬に参列するための公金支出の差し止めを求める住民監査請求を行いました。
私たちの措置請求書では、まず最初に、本件国葬が憲法14条(個人の平等)、憲法19条(思想及び良心の自由)、憲法20条(信教の自由)等の憲法の諸規定に違反していること。また、本件国葬は、法的根拠もなく、閣議決定だけで実施されており、違法であること等を説明しています。このような憲法違反、違法な国葬に、地方公共団体の知事や議会議長が出席したり、公金を支出することは、当然、違法です。
また、言うまでもないことですが、地方自治法第242条の住民監査請求の定めは、「違法若しくは不当な公金の支出」を対象としたものです。今回の監査請求では、法令に直接、違反しているかだけではなく、「不当な公金の支出」かどうかについても十分に審査していただきたいと思います。
この点でまず問題となるのは、やはり安倍政権の評価です。
安倍元首相が8年8ケ月の首相在任中に行ってきたことには国民の間で多くの批判があります。措置請求書でも触れましたが、安倍元首相は、教育基本法の改悪や、集団的自衛権行使を可能とする安保法制を強行採決しました。また、「モリ、カケ、サクラ」と言われる多くの疑惑もあります。そのために、最もまじめで誠実な国家公務員の命が失われたことも私たちは忘れることはできません。今回の狙撃事件の背景にも、カルト集団・統一教会との関係が指摘され、安倍元首相は統一教会の宣伝塔だったとの批判もあります。
今回の国葬では、司会者は次のように述べました。
「故人は、『常に闘う政治家でありたい』とのゆるぎない信念のもと、国家・国民のためであれば、いかなる批判も恐れず、ただひたすらに行動してきた」と全面的に評価したのです。
また、菅前首相は友人代表としての弔辞で、「日本国は、あなたという歴史上かけがえのないリーダーをいただいたからこそ、特定秘密保護法、一連の平和安全法制、改正組織犯罪処罰法など、難しかった法案を、すべて成立させることができました」、「総理、あなたの判断はいつも正しかった」と述べました。今回の国葬は、こうした安倍政権の否定的な側面を全て覆い隠し、塗り替えるためのものだったのです。
そして措置請求書では、安倍元首相の沖縄政策についても詳しく説明しました。集団自決(強制集団死)等の沖縄戦史実の改ざん、辺野古・高江の基地建設の強行・暴力的弾圧、沖縄の民意の徹底的な無視、米軍再編交付金・沖縄関係予算による基地と振興の露骨なリンク、南西諸島への自衛隊配備等、多くの問題が指摘されます。
沖縄にとって安倍政権は、民主主義や法治国家の対極に位置するもので、まさに、私たち県民にとっては悪夢のような8年8ケ月でした。
資料4にもありますが、今回の国葬について岸田首相は記者会見で、「我が国として個人に対する敬意と弔意を国全体として表す儀式」だと述べています。「弔意」だけではなく、「敬意」を表すことを強調しているのです。
しかし、先ほども述べたように、私たちは安倍元首相に対して敬意を表すことはとてもできません。各種の報道機関の世論調査でも、6割を超える人たちが国葬に反対していることが示されています。沖縄県民でも、後で述べるように、県議会議員の過半が国葬に反対しています。県民の反対の割合はさらに多いのでしょう。 そのような国葬に県議会議長が参列したことに、公金を支出することは認められません。
○当日の国葬の内容にも驚きました。
防衛大臣の説明では、国葬の際、1390名もの自衛隊員が動員されたそうです(2022.9.26 朝日新聞)。
国葬の冒頭には、これらの自衛隊員によって、19発の弔砲が発射されました。また、小銃による3発の空包の「弔銃」もあったといいます。「安倍氏が銃撃されたことに照らし、その適切さを問う声も一部から出た」(2022.9.26 朝日新聞)と報道されていますが、当然でしょう。
また、資料12の国葬の台本の32頁にありますが、黙祷の際には、自衛隊の儀じょう隊が、着剣捧げ銃の敬礼をする中、陸上自衛隊中央音楽隊が奏でたのは、「国の鎮め」という靖国神社参拝等に用いる軍歌でした。
資料13に、その歌詞があります。
国の鎮の御社(みやしろ)と
斎(いつき)まつろふ神(かむ)御魂(みたま)
今日の祭の賑いを 天翔(あまかけ)りてもみそなはせ
治まる御代を護りませ
国葬ではこのような靖国神社を讃える軍歌が奏でられたのです。今回の国葬は明らかに宗教儀式だったと言わざるを得ません。
そして、天皇の勅使が拝礼した際には、「悠遠なる皇御國(すめらみくに)」という曲が奏でられました。
「すめらみくに」とは、天皇がお治めになる国という意味です。
さらに、岸田首相と衆参議長、最高裁長官らの弔辞は、いずれも「従1位大勲位安倍晋三元内閣総理大臣」という言葉で始まりました。こんな呼びかけは普段はしません。国葬の対象者を天皇が与えた勲位で形容することで、天皇の権威を高めるものとなっているのです。
こうした点でも今回の国葬は、政教分離や主権在民を定めた憲法を正面から踏みにじり、天皇制を強化するものでした。
○玉城デニー知事は、9月12日、「政府が閣議決定で開催を決めた経緯などを指摘。『国民に対し、喪に服すことが半強制的な形で行われるのではないかと、非常に厳しい国民世論がある』」(琉球新報 2022.9.13)と述べて、国葬には出席しない意向を表明されました。
また、知事は、国葬当日も、県庁での半旗の掲揚や黙祷等の対応をされませんでした。私たちはこうしたデニー知事の発言・対応を評価します。
ところが、赤嶺県議会議長は、私たちの申入れや多くの反対の声にもかかわらず、今回の国葬に参列してしまいました。
資料10にあるように、今回の赤嶺議長の参列の経過について、次のように報道されています。
「県議会事務局によると、赤嶺議長は9月13日に全国都道府県議会議長会へ参列すると回答。15日に議長参列の是非について全7会派に意見を求めた」(タイムス)、「住民監査請求の動きを受けて、赤嶺議長が各会派に実施した議長の国葬参加への意見照会にも、4会派がそれぞれ『反対』と回答した」(新報)、「4会派は、『国葬実施に法的根拠がない』、『国内で安倍氏への評価は別れる。沖縄では激しい評価がある』などとして、国葬に反対すると説明した。一方で4会派は、意見照会を実施したにもかかわらず、照会内容をどう踏まえて判断したかなどについて議長から説明がないことを批判した」(新報)、「議長としての意見を求めておきながら、取扱いや手続きの説明もない」(タイムス)等です。
つまり赤嶺議長は、参加すると回答した後に、反対の声が高まっていることから、形式だけ県議会各会派の意見を聞いたのです。そこで、過半の議員が反対したにもかかわらず、それを無視して国葬に参加しました。何故、国葬に参加するのかという説明がいっさいないことも認められません。
赤嶺さんが個人的に、安倍元首相に敬意と弔意を示すために参列したといわれるのなら、それは自由です。しかしその場合は、当然、県民の税金、公費を使うのではなく、私費で参列すべきです。今回は、赤嶺議長だけではなく、随行の職員1名が同行し、資料11にあるような、旅行雑費、宿泊料、食卓料、旅費等が公費で出されようとしています。監査委員としてこれらの公金支出の差し止めを勧告していただくよう要請します。
少なくとも沖縄県監査委員は、今回の措置請求の審査にあたって、赤嶺県議会議長に対して、県議会議員の過半が反対していたにもかかわらず、何故、国葬に参列したのかを問うてください。
○これまで述べてきたように、今回の国葬は憲法等に違反したものですから、各地の弁護士会が反対声明を出しています。
追加の事実証明書の資料14には、沖縄県、京都、金沢、広島、新潟、神奈川、静岡、仙台、大阪、東京、第2東京、兵庫の各弁護士会の声明を添付しましたが、これだけではなく、他のいくつもの弁護士会が反対声明を出しています。是非、これらの弁護士会の反対声明に目を通してください。
また、事実証明書9には、千葉県葉山町議会の反対決議を添付していますが、他にも、神奈川県鎌倉市議会、東京都国立市議会、小金井市議会、高知県大月町議会、鳥取県日南町議会、南部町議会、長野県大鹿村、伊那市議会、北海道日高町議会等で、反対決議や弔意の強要をしないようにという決議があげられています。
また、今回の沖縄と同様の住民監査請求が、北海道、神奈川、埼玉、兵庫、鳥取、大阪、京都、青森、新潟、長野、高知等で、弁護士さんらを中心にして出されています。残念なことに、現時点で監査請求が認められた事例は聞いていませんが、全国でこれだけ多くの異議申し立てが起こされているのです。
いくつかは監査結果が出たようです。沖縄県監査委員はすでに各地の監査結果を入手されているでしょうが、とても納得できないような判断が相次いでいます。
たとえば大阪府監査委員は、「『国葬』は閣議決定に基づいて行われ、その法的根拠は内閣府設置法にあるとされている」(2022.9.21 NHKTVニュース)、兵庫県監査委員は、「参列は知事や議長の裁量と考えられる」(2022.9.22 サンテレビニュース)、広島県監査委員は、「国葬について『閣議決定に基づいて実施され、首相名で知事と議長に案内があった』などとして『国の公式行事』と判断。知事や議長の出席について『社会通念上相当と認められる社交儀礼上の行為』と考えられる」(2022.9.27 毎日新聞)、兵庫県監査委員は、「国葬への参列は『地方公共団体の事務に属する』」(2022.10.1 神戸新聞)等です。
これらについては、すでに私たちの措置請求書や陳述でも詳細に説明し、各地の弁護士会声明等でも完全に論破されています。沖縄県監査委員として、知事の判断や県民の意向、そして各地の弁護士会の声明等を考慮した判断をしていただきたくよう要請します。
以上で私の陳述を終わります。