・静岡県から九州沖にかけてマグニチュード8~9級の巨大地震が30年以内に
「70~80%」の確率で発生するとされている南海トラフ地震。この数字を出すにあたり、政府や地震学者が別の地域では使われていない特別な計算式を使い、全国の地震と同じ基準で算出すると20%程度だった確率を「水増し」したことを、ほとんどの人は知らないだろう。なぜなら、そうした事実は私が取材するまで、政府や地震学者によって「隠す」かのように扱われていたからだ。
・確率を下げると「防災予算の獲得に影響する」という意見が幅をきかせた。
・東海地震説は1975年に「駿河湾で大地震が明日起こったとしても不思議ではない」とぶち上げられた仮説だ。・・・
しかし、1995年には予知されることもなく阪神・淡路大震災が発生。
・東日本大震災(2011年)では、予測とは場所も規模も全て違う想定外の地震が発生。地震ムラは阪神・淡路大震災に続き、今度こそ存続の危機に立たされるともみられたが、東京電力福島大い原発事故に注目が集まり、社会からの「おとがめ」はなかった。
・2016年に発生した熊本地震では、震源となった活断層の30年以内の地震発生確率が「ほぼ0~0.9%」とされており、熊本県は低確率であることをPRして企業誘致を行っていた。
・それでも予測を出し続ける背景には、予知体制から残る地震ムラの存在があり、ポストや研究予算などの既得権益も絡んでいる。
・中日新聞で2019年に掲載し、2020年に日本科学技術ジャーナリスト会議の「科学ジャーナリスト賞」を受賞した。
・一般に科学的に算出されていると思われている確率が、実際には限られた人たちにより密室で、科学を都合よく利用して決められていたという実態を浮かび上がらせた。
・70~80%の根拠は、江戸時代に室津港を管理していた役人が残した古文書だ。調査からは、この古文書が100年近く前に、ある地震学者によって発表されて以来、他の研究者の検証をあまり受けることなく、役人の子孫の自宅で眠っていたことが発覚した。解析を進めると、港は何度も人工的に掘り下げられ、地震の隆起とは関係がないデータである可能性など、重要な事実が次々と明らかになった。
・名古屋大の鷺谷威教授(地殻変動学)
「個人的には非常にミスリーディングだと思っている。80%という数字を出せば、次に来る大地震が南海トラフ地震だと考え、防災対策もそこに焦点が絞られる。実際の危険度が数値通りならいいが、そうではない。まったくの誤解なんです。数値は危機感をあおるだけ。問題だと私は思う」
・鷺谷氏によると、地震学者たちは、いったんは全国で統一の計算方法を用いて算出した「20%程度」という確率を素直に発表する案も検討したという。ところが、その方針を政府の委員会の上層部に伝えると、大反発が巻き起こった。
・「突っ込みどころ満載」の確率
「南海トラフ地震は01年評価も13年評価も『時間予測モデル』という計算モデルを使っています。世界的にも有名なモデルなのですが、中身を見ると突っ込みどころ満載なのです」
・「海溝型分科会では、もうこのモデルを使うのはやめて、確率が20%に下がっても単純平均モデルを使いましょうと、一度は意見がまとまりました。すると、普段は長期評価に関わらない政策委員会に諮られて『確率を下げることはけしからん』と言われたんです」
・鷺谷氏によると、海溝型分科会はせめて時間予測モデルおt単純平均モデルを同列に扱う「両論併記」で報告書を書こうと提案したという。
「ですが、それも政策委員会側が強く拒否し、かないませんでした」と鷺谷氏は語気を強める。
最終的に、報告書の一番目立つ「主文」に時間予測モデルの確率だけが残り、単純平均モデルはそのずっと後段の「説明文」の中に、参考程度として埋もれる形になったという。・・・
「委員たちは、それなりに実績を上げた研究者ばかりです。時間予測モデルはおかしいと言っている委員の意見が全く通らないなんて、そんなこと、おかしいでしょう」
・2001年当時の地震調査委員長は津村健四郎氏(2006年に委員長退任)だ。長期評価の最終責任者だった。
「最近は、時間予測モデルはデータが乏しくて、それを適用するだけの根拠がないという意見が多いと聞いていたので、私はてっきり今は時間予測モデルではなく、別のモデルで評価しているのかなと思っていたんです」と語った。
「今もし、先生が地震調査委員長だったら、まだ時間予測モデルと使いますか」と聞くと、腕を組みながら少し間を空けて、
「うーん。今だったら使わない可能性もあるかな」と答えた。
・産業技術総合研究所の宍倉正展氏
「時間予測モデルには問題があるんです。それなのにそれを選ぶということは、純粋に科学だけの面から言うなら、長期評価はやっぱり歪んでいる」と語る。
・海溝型分科会委員だった海洋研究開発機構の堀高峰氏は、
「南海トラフだけが特殊な確率の出し方をして、社会に対しては『確率が高く、地震が切迫しているから』というロジックで防災を訴えているのは事実」と述べる。
・海外には時間予測モデルに否定的な論文も
・室津港のデータも怪しい
「元データとしている室津港の海底の隆起量に、どれだけ信ぴょう性があるかという問題もあるんですよ」
・「公になると問い合わせが殺到する」
「このような情報が公になることで、地震調査研究推進本部のみならず、国の機関、独立行政法人等又は地方公共団体に国民や報道関係者から問い合わせが殺到するなど、国機関、独立行政法人等又は地方公共団体が行う事務又は事業の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、法第5条6号にも該当すると判断し、不開示とします」
「そんなばかな」。私はつい、そうつぶやいた。国民から問い合わせが殺到することが不開示の理由になるのであれば、役所にとって都合の悪い内容の文書は全て不開示に出来てしまうのでないか。そもそも、国民やマスコミから問い合わせが殺到するほど関心が深い内容ならば、むしろ地震本部から率先して説明するのが筋だろう。地震本部の存在意義が疑わしくなる回答である。
・「・・・発生確率が高いということなんですね。それを今回、単純に下げると『税金を優先的に投入して対策を練る必要はない』『優先順位をもっと下げてもいい』と主流砲火を浴びると思います」・・・
私はこの委員の生々しい発言に絶句した。確率が防災予算に影響することはあるだろうが、確率を決める議論と防災予算獲得の議論は別の話で、一緒に論じるべきではないだろう。
・「掘り下げなら根底から覆る」
「室戸は地震のたびに土地が隆起するので、港の水深が浅くなります。地震が浅くなるたびに、港は何度も掘り下げられてきました」
・東京電機大学 橋本徳仁教授(2022年3月に京都大を定年退職)
「室津港の水深が時間予測モデルの根拠に使われているのは、それが、地震によってどれだけ大海が隆起したかがわかる数少ない事例だからです。もし、人工的に掘り下げっられいたとしたら、そのデータは使えないことになります」
・問題なのは、室津港の水深をどちらの竿で測ったかという記述がないこことだ。もし地方の竿で計測されていたとしたら、26%長く記録されていることになるが、確かめるすべはない。・・・
この試作値を時間予測モデルに当てはめると、確率はどうなるだろうか。・・・
隆起量が最大の2.4メートルである場合、次の地震は2011年の時点で既に発生していたことになり、確率は2022年時点で90%となる。一方、1.4メートルの場合は、次の地震の発生は2061年で、確率は2022年時点で38%だ。
・「長期評価は室津港のデータを基にしています。そこに矛盾があるとすると、何回トラフとの30年で70~80%という確率は産出できないのではないですか」。すると島崎 邦彦(東京大学名誉教授/日本地震学会会長・地震予知連絡会会長を歴任)は
「まあ、その通りですね」
とうなずいた。
・地震予測と地震予知とでは、その手法が異なる。地震予測は過去に起きた地震の統計から、「30年以内に何%」などとおおざっぱな次の地震の時期を予測するのに対し、地震予知は地震が起きる前に発生すると考えられている前兆現象を観測でとらえ、「3西以内に静岡県で自信が派生する」などピンポイントで言い当てるものだ。先に結論を言ってしまえば、現在の地震学では地震との因果関係が証明された前兆現象は見つかっておらず、地震予知はできない。
・科学技術庁長官の田中真紀子氏は「地震予知に金を使うぐらいだったら、元気のよいナマズを飼ったほうがいい」と言い放ったと語り継がれており、地震予知推進本部は今の「地震調査研究推進本部」に看板を掛け替え、政府の目標が地震予知から予測に切り替わった。
・政府に「忖度」する地震学
・行政や国民の側も、過度に予知・予測を求めるのではなく、科学には限界があることを理解した上で、科学的に言えることは生かし、地震はいつでもどこでも起きる前提で、先ずは身の回りから対策を進めていくことが重要だ。
感想;
静岡県から九州沖にかけてマグニチュード8~9級の巨大地震が30年以内に「70~80%」の確率で発生するとされている南海トラフ地震
これが発表されたとき、「あれ? あれほど騒いだ東海沖大震災予測はどうなったんだろう?」と思いました。
東海沖で大震災が起きると地震学者と政府が発表し、静岡県では警報装置が設置とか・・・。
しかし、予測されなかった阪神・淡路大震災、中越地震、東北大震災、熊本地震と起きて、東海沖地震は起きていません。
地震予測は「当たらない!」との考えを持っていたので、南海トラフ地震は眉唾モノだと受け止めていました。
今回この本を読んで、その思いが正しかったことを知りました。
そして地震予測は政治が絡み、税金を投入するためのものであることがよく分かりました。
ただ、ここまで科学を歪めるのかと呆れてしまいました。
田中真紀子長官の「元気なナマズ飼ったほうが良い」は、確かにそうかもしれないと思うほど、予測は当たらないというより、それが今の地震学の限界なのでしょう。
それを政府が税金を投入するために、利用していることがよくわかりました。
地震学者も「おかしい」と思う人が多く、インタビューに本音を打ち明けてくれたようです。
①根拠の乏しいデータを使っている
②通常と違う尺度で評価している
③地震学者も?と思う人が多い
の状況で南海トラフ地震の政府発表をマスコミも報道したのです。
この著者のような人がいるから真実が明らかになるようです。
それにしても、政府の開示拒否の言い訳には私も開いた口が塞がらない状況でした。
「真実が分かると国民から問い合わせが殺到し、事務作業が大変で事務作業に支障来すから開示できない」。
真実でないことを国民に言っていることこそ大問題です。
それを国が認めているということです。
国に騙されないように、国民も知ること、知恵を付けることなのでしょう。
国の言うことは素直に受け入れずに、先ずは「本当か?」との疑問を持つことが良いようです。
五木寛之氏の家族は終戦時、朝鮮の平壌にいました。
政府が「治安は維持されているから、留まるように」と言ってきたそうです。
それを信じていたら、政府の高官は我先に日本に逃げ帰っていたそうです。
それがわかってから、ソ連は攻めてくるし、中国朝鮮の人はこれまで暴力を受けた仕返しなど大変でお母様も含め多くの女性は強姦などされ、お母様も亡くなられています。
政府高官の家族はさっさと我先に逃げ帰り無事日本に戻っています。
政府の言うことを信じたばかりに・・・。
苦しむのは下級国民なんです。
それから五木寛之氏は政府の言うことを疑いの目で見るようにされているそうです。
国民に都合の悪いデータは隠し、開示もしないのです。
今の政治とは国民のためではなく、政権を握った人のためのようです。
そういう人を選んでいる国民に問題があるのでしょうね。
おかしなことをする人は、「No!」と言わないとおかしなことを認めたことになります。なのに下級国民は高級国民のための政治を望んでいるようです。
諦めて投票にも行かないのは結局高級国民のやり放題を認めていることになるのですが。それとも自分は高級国民側と思っている人もおられるかもしれません。
第71回菊池寛賞受賞されました。