英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

『“新参者”加賀恭一郎~「眠りの森」~』

2014-01-08 22:56:43 | ドラマ・映画
 『眠りの森』は原作の『加賀恭一郎シリーズ』としては2作目に当たる。まだ、キャラが浅い加賀ということで、『新参者』の加賀に比べると、かなり薄味に感じた。(『新参者』の加賀は、人の心にかなり強引に踏み込み、神出鬼没でもあったので、怖かった)
 加賀恭一郎の初登場は、『卒業』(1986年、東野氏のデビュー第2作)で探偵であった。『眠りの森』(1989年)で再登場となったが、刑事(捜査一課・巡査部長)となっている。なので、この『眠りの森』が実質、「加賀恭一郎シリーズ」のスタートと考えて良いのかもしれない。
 2010年にドラマ化された『新参者』は、『小説現代』(講談社)2004年より5年にわたって発表された短編(9作)で、2009年に単行本として講談社から刊行されている。
 『新参者』は「加賀恭一郎シリーズ」の1章に過ぎないので、『新参者シリーズ』として扱われるのは、原作者としては不本意のような気がする。

 加賀が見合いでバレエを鑑賞することになったが、熟睡してしまい、相手の女性を怒らせてしまった。そのバレエ『白鳥の湖』を上演したバレエ団で事件が起こった。
 事務所で男・風間利之(内田朝陽)が殺されたが、この男とバレエ団の者とは面識はなく、一見、侵入者とのもみあいの末の正当防衛のように思えたが、細かい点で不審な点もあった。
 加賀が指摘した「身長の高い男を小柄な葉瑠子が後頭部を殴打できるのか?」や、事務所に先に入った葉瑠子の背後にいつの間にか立っていて、襲ってきたというのも不自然。葉瑠子を襲うつもりでなければ、その場を立ち去るか、身を潜めるのが普通だ。それに、凶器のトロフィーに葉瑠子以外の指紋がないのも不自然である。

「私たちは嘘をついているんです。
 嘘は魔法の呪文です。ただの人間が役になるために、自分に魔法をかけるんです。
 そうしてバレエ団全員で、“舞台”という“大きな嘘”をつくんです」

「じゃあ今も、嘘をついている最中なんですか?」
「そういうことになりますね」
「舞台が終われば、嘘の魔法は解ける」
「ええ……」

 ドラマ序盤での、恭一郎と亜希子との会話……この会話が、事件の根底にあるものを示唆している。


「あのバレエ団の一味が、みんなでグルになって何かを隠している」(太田刑事)…この台詞も核心を突いている。
その後
「あのバレエ一味は、何か(亜希子)を守っているような気がします」と進展したが……

………守っていたものは、亜希子ではなく、未緒の最後の舞台だったのだ。
「今から私たちは魔法にかかるの。最後の舞台が終わるまで。それまでは何があっても嘘をつき通すの」



殺気を発する黒鳥(オディール)・未緒

「あなた(未緒・石原さとみ)の黒鳥には迫力があった。斬りかかるような殺気を感じた」

「あなたのフロリナ姫、観ましたよ」
「殺気…出てましたか?」
「いえ、あなたの情熱、やさしさ、強さ…あなたの人生のすべてが出ていました」
「……でも、もう私は踊れません。魔法、解けちゃいましたから」
「魔法は解けません。あなたの踊りは永遠に記憶に残る。
 わたしや人々の記憶の中で、あなたは永遠に踊り続けるんだ」

しかし……
「加賀さん……今、私に話しかけていますか?加賀さん、私に何か話しかけていますか?」
聴力が消え、泣き叫ぶ未緒。切なく、悲しい………



バレエに魅入られ、人生の全てを懸ける者たち
亜希子……バレエを選び、アメリカで恋人・青木を捨てた。そのことが、今回の悲劇を招いた。
靖子……演出家・梶田に認められようとバレエに打ち込むが、叶えられず心の闇に沈み、梶田を殺害。さらに、梶田を亡くしたことで、心が死に、自ら命を絶つ。
梶田……自分の描く理想のバレエの為、バレリーナたちを道具としか思っておらず、靖子に殺害される。


張り巡らされた多くの伏線(ヒント)
 殺気を発する黒鳥の舞、亜希子の腕の傷跡、葉瑠子が起こした交通事故・雨を避けようとする未緒、頻回に貧血を起こす未緒、亜希子の練習風景(ターンの練習)、侵入者・風間が影響を受けた青木の死、青木の描いたバレリーナの絵、靖子のアパートで言い争う男女の声と、謝る男性・靖子を尋ねた女性の存在………さり気なく張られた伏線が、見事に収束していく。
 特に、青木の残した絵のバレリーナの正体が誰なのかがカギで、しかも、実はその絵自体が誰であるかを示していたというのは、見事なヒントだった。


「俺ね、捜査一課の刑事、嫌いなんだよ」……太田刑事(柄本明)
 単なる正当防衛ではないと睨む太田刑事は、捜査一課の加賀が煙たい。
 そういう気配を全く意に介さず、太田と捜査を共にする加賀。
 そんな加賀を、「人の気持ちを分かろうとしろ!」と怒鳴り、事件関係者の心に土足で踏み込んでしまう事を肝に銘じる必要があると加賀に説く。そして、上述の本音を吐く。
 その後も「おれはちっとも分かんないよ!息子のことも、あんた(加賀)のことも!」と言い捨てる。息子の気持ちが分かりかねる太田は、家族を犠牲にして家族を壊した父を嫌う加賀、居酒屋で飲みながらぼやくふたりもよい。

 そして、加賀と行動を共にするうちに、加賀を理解していき、捜査会議でニューヨーク現地調査で加賀の現地行きを渋る上層部を、熱く語り説得する。また、加賀も捜査方針に疑問を感じている太田の気持ちを慮り、進言する。
 この二人の心の繋がりは味があった。加賀の独行振りに翻弄され気味の様子も面白かった。


疑問点、不満な点、ふと思ったことなど
①耳の異常を感じた未緒はカーテンコールには出ず、屋上に行った。しかし、追いかけた加賀が屋上についた時には、まだ耳が聞こえていた。にもかかわらず、病気を進行させる雨の降っている野外にわざわざ居続けたのだろうか?
②靖子が梶田に認められない悲しさや苦しさから、梶田を殺害してしまうが、その手口が計画的過ぎる。直情的にナイフで刺すというのなら分かるが、時限式の毒殺というのは不自然。梶田がすべての靖子なので、捕まらない細工をするというのもしっくりこない
③靖子が梶田から見放された状態であったが、風間殺害後で刑事たちが嗅ぎまわっている時に事を起こすものなのか?確かに、事件が起こり、過去のことを尋ねられ、風間の写真を見せられ、心がざわついたということはあるかもしれないが、殺人を犯すほど心を激震させるような出来事はなかった。
④黒鳥のフェッテ(連続ターン)は見事だった。『白鳥の湖』『眠りの森の美女』のバレエも素敵だった。
 黒鳥のフェッテは吹き替えだが、石原さんや音月桂さんのバレエシーンの演技は大変だったと思う。黒鳥でポーズを決めた石原さんは綺麗だった。
⑤ドラマ冒頭で、加賀の見合いの相手役で仲間由紀恵さんが出演。役名も「山田」(『トリック』と同じ)だった。

「嘘は魔法の呪文、自分に魔法をかけ、バレエ団全員で、“舞台”という“大きな嘘”をつく」をモチーフに事件の真相を隠す亜希子たち。さらに、かけた魔法が解け、聴力を失い、踊れなくなってしまった未緒。それを見事に描いた素晴らしい作品であった。(悲しい真相、結末は、切な過ぎる)

【ストーリー】番組サイトより
警視庁捜査一課の刑事・加賀恭一郎(阿部寛)は、ひょんなことからバレエ「白鳥の湖」を観にいく羽目になるが、興味の無い上に徹夜明けということも重なり、公演中に居眠りをしてしまう。しかし、途中で目を覚ました加賀は、浅岡未緒(石原さとみ)が演じる黒鳥に目を奪われ、その才能にすっかり魅了される…。そんなある日、その公演を主催する名門・高柳バレエ団の事務所で、ある男が殺された。居合わせたバレリーナ・斎藤葉瑠子(木南晴夏)が被疑者とされ事情聴取を受けるが、不審者から身を守る上での正当防衛だと主張。被害者の男・風間利之(内田朝陽)と葉瑠子は面識がなく、プリマである高柳亜希子(音月桂)を中心に、バレエ団側も葉瑠子の証言を疑わなかった。

石神井北署の太田刑事(柄本明)は、当初この案件にやたらと首をつっこんでくる加賀に対して冷たい態度をとっていたが、次第にその捜査姿勢や観察眼に一目置くように。徐々に捜査に熱を帯びていく加賀に対し、嫌味を言いながらも冷静になるよう諭しつつ、2人はパートナーとして捜査を進める。捜査が進む中で幾つかの不審な点が浮かび上がり、事件が混迷を極める中、今度は「眠りの森の美女」のゲネプロ中に、バレエ団の敏腕演出家・梶田康成(平岳大)が毒殺された。果たして、最初の事件と関係があるのか…!?
コメント (8)
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