第17図以下、▲7三桂△7一玉▲6五馬と進むが、1枚の桂を外すに留まっては、先手の負け筋のようだ。
▲6五馬に△6九銀(第18図)が鮮烈!
▲同玉は△4九飛▲5九合駒△6八銀▲同金△7九飛以下詰みなので、▲5七玉と逃げるが△5六銀と打たれ▲同馬と馬を呼び込まされ△5八飛▲4六玉△5六飛成と馬を取られては勝敗は決したかに見えた。4四の桂が残っているのが大きかった。
以下▲3五玉△5五龍に▲4五金と金を合駒するのは△同龍▲同玉△2三角▲3四金△5五飛▲4四玉△3五銀▲同金△5四飛▲3三玉△3二金(変化2図)で詰将棋みたいに詰む。
なので▲4五桂と桂を合駒。控室の検討では、これには△7八とが詰めろで後手の勝ちという結論が出ていた。次に変化2図までと同様の手順(△4五龍▲同玉△2三角▲3四金△5五飛▲4四玉△3五銀▲同金△5四飛▲4三玉△3二金)で詰む。
ところが、羽生名人は△3三銀。これももちろん詰めろ。こちらの方が自然で分かりやすい。この手に三浦八段は59秒まで考えて投了。
これは勝ちがないと読んでの投了ではなく、ぎりぎりまで指し手を考えていて、指し手を決め切れず、着手が間に合わず投了を告げたような感じだった。
実際、投了図では▲8一金と打てばまだまだ難しかったようだ。
「以下△7二玉▲8二金打に(1)△6二玉は▲6一桂成△同玉▲7一金寄△5一玉▲7三角が王手龍取り。(2)△7三玉は▲5一角(王手銀取り)△7四玉▲3三角成△7八銀不成▲6六銀△同龍▲同歩△7五玉で、羽生の方が少し良さそうだが、相入玉の可能性があり、勝負はまだまだ続いていた」
とのこと。
羽生名人は「勝ちだと思ったのは最後の最後。銀を打ったところです」という感想を述べていたが、もし、三浦八段に上記のように指されていたら、危なかったかもしれない。
一方、三浦八段は最後の最後まで「なにかあるはず」と読み続けていた。
この一局に関しては、羽生名人が時々露呈する終盤のぐらつきが見られた。ここ数年、優勢な将棋を2日目の夕方に変調になり、形勢不明になり、夕食休憩後持ち直すが、再びよろけるパターン。
この将棋でも2日目の午後4時にBS中継が始まったころは、「羽生優勢で勝利が固い」という評判だった。この将棋の場合は足取りが乱れたのは、少し遅くて夕食休憩後の△6三角辺りで、その後はなんとなくあっさりした手順になった。三浦八段の▲5七銀~▲4五角成までの好手順もあり、形勢は急接近。ここでガタガタッと崩れず△2七歩や△65桂打などギリギリで踏ん張り勝ち切った…かに思えたが、3三への合い駒の選択を誤り、逆転。
三浦八段もチャンスをつかみ切れず、再び勝勢になったものの、最後も最善手を逃がす。
最後に勝利をつかんだのは強さではあるが、最後の最後の両者の気持ちの差は、少し、ほんの少し気になる。
ただ、この将棋、控室の研究では三枚換えになってからはずっと「羽生良し」という評判だったが、羽生名人本人は駒損で大変という感覚だった。「局勢が悪い時間が長いほうが勝ちにくい」という法則が正しいのなら、羽生名人の感覚としては勝ちにくい将棋だったということなのかもしれない。
羽生ファンとしては、この難解な終盤のぎりぎりの局面を観ることができ、羽生名人の強さも観ることができたし、終盤ぐらついたものの、勝利できたのは大きい。
最後に、「投了図では▲8一金と打てばまだまだ難しかった」では悔しいので、少し調べてみた。
「△7二玉▲8二金打に(1)△6二玉は▲6一桂成△同玉▲7一金寄△5一玉▲7三角(参考1図)が王手龍取り」と記されているが、この局面、実際どうなのだろうか。
この王手龍取り、実際は香車の紐がついていて、純粋な王手龍取りではない(香車で取り返せば飛角交換に過ぎない)。
さて、参考1図以下、△4二玉▲5五角成で参考2図。
図では、3三の銀や4四の桂が先手玉を包囲していて、△2四角や△4三桂や△3四飛など有効な手が多い。それに、5二の香も5五の馬取りになっている。先手の7一と8二の2枚の金も相当な無駄使いだ。
一見、どう指しても後手が勝ちそうに思える。ところが、実際調べてみると、これが難しい。先手から▲3三桂成と銀を取られる手が想像以上に厳しい。1一のと金も微妙に利いている(▲2二銀捨てから▲2一飛の筋がある)。
いろいろ調べるが、なかなか後手勝ちにならない。
と、もたもたしている間に18日になってしまいました。いよいよ、第4局です。
気力も棋力も尽きて、期限も切れてしまったようです。スッキリ決めたかったのですが、これにて『第3局雑感』終了ということで、お許しください。
渡辺竜王、しつこいトラックバックを了承してくださり、ありがとうございました。
棋王戦の第5局(190手!)でもありましたが、人間が指す将棋ですから間違いもありますよね~。
改めて、人と人の戦いだと思いました。
この第3局も、棋王戦第5局も熱戦でした。
(棋王戦第5局は「名局賞」に選ばれましたが、形勢が何度も揺れた(悪手、疑問手が多かった)ので、「名局賞」に選ばれたのは不満です。
今名人戦は、三浦八段が体ごとぶつかっていく感じで、対局姿に心が揺さぶられますね。
確かに興味ある1局で、この1局が指されたときは、話題になりました。
余裕があれば検証したいのですが、現状では棋力と棋力が不足していて…。
『週刊将棋』でも、終盤のポイントが取り上げられていましたが、詳細は分かりません。
序盤はお互い少しずつ修正して、難解な終盤になったとのことです。