はなにあかで なにかへるらむ をみなへし おおかるのべに ねなましものを
花にあかで なに帰るらむ 女郎花 多かる野辺に 寝なましものを
平貞文
花に飽きてもいないのに、どうして皆さんはもう帰ってしまうのでしょうか。女郎花がたくさん咲いている野で寝てしまいたいとさえ思っていますのに。
詞書によれば、役人たちの嵯峨野への道行きに同行していた作者が、逍遥を終えて帰ろうとする一行に向けて詠んだ歌とのこと。「をみなへし おおかるのべに」は 0229 の冒頭と同じですね。あるいはそれを踏まえての歌でもあるのでしょうか。
作者の平貞文(たいら の さだふみ)は平安時代前期の貴族にして歌人。名前は「さだぶん」とも読み、また、「定文」とも書くようです。中古三十六歌仙の一人で貫之ら古今和歌集の撰者とも親交があり、古今集には九首、勅撰集全体では26首が入集しています。
0226 からの女郎花を詠んだ歌群はここまでとなります。