おきもせず ねもせでよるを あかしては はるのものとて ながめくらしつ
起きもせず 寝もせで夜を 明かしては 春のものとて ながめくらしつ
在原業平
起きているのでもなく寝ているのでもなく夜を明かしては、春の風物の長雨の中、物思いをしながら過ごしていたのです。
今日から始まる巻第十三「恋歌三」のご紹介、冒頭に「平安のプレイボーイ」在原業平の歌が 0476 以来久々に登場です。詞書には「弥生のついたちより、忍びに人にものら言ひて後に、雨のそほ降りけるに、よみてつかはしける」とあり、人目を忍んで語り合った相手に、その後しとしとと雨の降る夜明けに詠んで送った歌ということですね。「ながめ」は「長雨」と「眺め」の掛詞となっています。かの有名な小野小町の歌(0113)でも使われたおなじみの語法ですね。
はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに
花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
小野小町