ひとしれぬ わがかよひぢの せきもりは よひよひごとに うつもねななむ
人知れぬ わが通ひ路の 関守は 宵々ごとに うちも寝ななむ
在原業平
人に知られず密かに私が通う路の番人には、夜毎に居眠りでもしてほしいものよ。
業平の歌ですので、例によって歌物語かとまごうような長い詞書がついています。長いですが、全文を引用します。
東の五条わたりに、人を知りおきてまかりかよひけり。忍びなる所なりければ、門よりしもえ入らで、垣のくづれよりかよひけるを、たびかさなりければ、あるじ聞きつけて、かの道に夜ごとに人を伏せて守らすれば、行きけれどえあはでのみ帰りて、よみてやりける。
「歌物語かとまごう」と書きましたが、実際に伊勢物語の第五段にも収録されています。