みちのくに ありといふなる なとりがは なきなとりては くるしかりけり
陸奥に ありといふなる 名取川 なき名とりては 苦しかりけり
壬生忠岑
陸奥に名取川という名の川があるというが、その名の通りありもしない噂を立てられるのは苦しいことです。
「名取川」は宮城県の仙台市・名取市を流れる河川。「名を取る」の連想から、この歌を始めとして多くの和歌に詠み込まれています。有名どころで、西行と定家の歌をご紹介しておきましょう。
なとりがは きしのもみぢの うつるかげは おなじにしきを そこにさへしく
名取河 岸のもみぢの 映る影は おなじ錦を 底にさへ敷く
西行
(山家集 下巻 第1130番)
なとりがは いかにせむとも まだしらず おもへばひとを うらみつるかな
名取河 いかにせむとも まだしらず 思へば人を 恨みつるかな
藤原定家
(続拾遺和歌集 巻第十三 「恋歌三」 第914番)