おもふどち まとゐせるよは からにしき たたまくをしき ものにぞありける
思ふどち まとゐせる夜は 唐錦 たたまく惜しき ものにぞありける
よみ人知らず
気の合う者どうしが団欒している夜は、唐錦を裁つのが惜しいのと同じくらい、座を立つのが惜しいものでした。
「どち」は「~たち」「~ども」を表す接尾語。「まとゐ」は「円居」で団欒する意。「唐錦」は中国産の高級な綿で、衣服にするために裁断するのが惜しく思われるほどのもの。「たたまく」は分かりづらいですが、「『たつ』の未然形+推量の助動詞『む』の未然形+接尾語『く』」で、「たとうとすること」の意。さらに「たつ」は「裁つ」と「立つ」の掛詞になっていますね。仲間との団欒の一時は楽しくて、興が乗って来ると、唐錦を裁つのが惜しいとの同じくらい、その座を立つのが惜しく感じられる、という歌です。