かつみれど うとくもあるかな つきかげの いたらぬさとも あらじとおもへば
かつ見れど うとくもあるかな 月影の いたらぬ里も あらじと思へば
紀貫之
こうして月を見ていると、すばらしいと思う一方、うとましい気持ちにもなる。この月影が照らさない里がないのと同じように、あなたが月を愛でるのも私のところでばかりではないのでしょうから。
詞書には「月おもしろしとて、凡河内躬恒がまうできたりけるによめる」とあります。歌だけを読むと男女間のやきもちの歌にも思えますが、躬恒と貫之の間での歌ですから、あるいは女性のところに赴く道すがらにちょっと貫之のところに寄った躬恒を貫之がからかったのかもしれませんね。