いろなしと ひとやみゆらむ むかしより ふかきこころに そめてしものを
色なしと 人や見ゆらむ 昔より 深き心に 染めてしものを
近院右大臣
何も色がついていないとあなたは思うでしょうか。しかし、これはずっと昔からあなたを思う私の深い心で染めてあったものなのです。
詞書には「大納言藤原国経朝臣の、宰相より中納言になりける時、染めぬ袍綾(うへのきぬあや)をおくるとてよめる」とあります。通常ならしかるべき色に染めて贈る絹地を染めずにそのまま送り、それにそえて「色がないように見えるでしょうが、私の深い心で染めたものなのですよ」と歌ったということですね。男性同士のやりとりでもあり、真意は良くわかりません。友情の証といったことなのか、あるいは何らかの皮肉が込められているような気もしますね。