もみぢせぬ ときはのやまは ふくかぜの おとにやあきを ききわたるらむ
紅葉せぬ ときはの山は 吹く風の 音にや秋を 聞きわたるらむ
紀淑望
紅葉しない常盤山は、吹く風の音を聞くことで秋の訪れを知るのであろうか。
歌意はわかりやすいです。また、ひとつ前の 0250 で秋になっても色が変わらないものとして海の波を詠んでいるのに対して、こちらでは山に生える木にも変わらないものがあることを詠んでいす。この二首を対比させる意味で、撰者が並べて配置したものでしょう。「ときはの山」の「ときは」は、京都にある実際の地名ですが、その名(常盤=常緑)から、紅葉しないというイメージがあるようです。もっとも、「山」と言っても実際の常盤の地はほぼ平野で、地名の由来は源常(みなもとのときは)がこの地に山荘を構えたことによるとのこと。源常は、古今集には東三条左大臣の名で一首が入集していますね。(0036)
作者の紀淑望(きのよしもち)は平安時代前期の貴族で儒学者。古今和歌集の真名序を書いた人物とされますが、採録はこの一首のみ。勅撰集全体でも入集は三首にとどまります。