2006年のドイツワールドカップでのジダンの「頭突き」や各地で報道されるイスラム教徒の「激しい抗議行動」などから、「わけのわからない教え」に従う「攻撃的」な人々だ、というイメージで受け取られがちなイスラム教徒について、イスラム教の教えや実際の人々の考えを紹介するとともに、西欧キリスト教国が長い年月をかけて築き挙げてきたイスラム教徒に対するネガティブキャンペーンの仕組みを解き明かしている本です。
トルコ東南部のアンタキアという都市での、イスラム教・ユダヤ教・キリスト教がお互いの祝日を祝いながら共生しているエピソードは印象深いです(ここに限らず、シリアやトルコ東南部ではそういう都市が多いそうです)。
イスタンブールでユダヤ教の指導者(ラビ)と異なる宗教との共生について話したことがある。そのとき彼が言った言葉が忘れられない。「1947年(*)まで、我々とムスリムとのあいだには、なんの問題もなかった。その後、濁った水で魚釣りをする人たちが現われた。そのおかげで、アラブ・イスラエルの対立が生じたのである」。
(* 国連がパレスチナ分割を決議した年)
考えさせられたのが、一夫多妻制について。
コーランでは
孤児に公正にしてやれそうもないと思ったら、誰か気に入った女をめとるがよい、二人なり、三人なり、四人なり。だがもし(妻が多くては)公平にできないようならば、一人だけにしておくか・・・
とあるそうです。
イスラムではこのように男性が4人まで妻を持つことは合法としているが、妻と同様子供に対しても平等な処遇を義務付けているから、どの妻との間に生まれた子供も平等な処遇を受けることになります。
ムスリムは、一夫多妻を理由に批判されると、「不倫関係の結果生まれた子どもを差別的に処遇してきた西欧社会に比べて、どちらが公正か考えてみよ」と反論する。
いくら一夫一婦制といっても、実際には守らないし、守らない結果、何の罪もない子どもが差別的に扱われるのでは、まことに不公正である。
西欧はさておき、この点については日本は法制度からして以前厳しいままで、最高裁もそれを是認した判決がついこの間出たばかりです。
非嫡出子:相続規定、最高裁が合憲決定
(2009年10月3日 12時10分 毎日新聞)
婚姻していない男女の間に生まれた「非嫡出子」の遺産相続分を嫡出子の半分と定めた民法の規定の合憲性が争われた審判で、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は9月30日付の決定で「法の下の平等を定めた憲法14条に違反しない」と判断し、非嫡出子側の特別抗告を棄却した。
決定は4裁判官中3人の多数意見で、判例を踏襲した。今井功裁判官は「子の出生に責任があるのは被相続人で、非嫡出子には何の責任もない。規定は違憲」と反対意見を述べた。合憲とした竹内行夫裁判官も「相続時は合憲だが、社会情勢は変化し、現時点では違憲の疑いが極めて強い」と補足意見を述べた。
非嫡出子の相続差別を巡っては、95年の最高裁大法廷決定が初の合憲判断を示したが、15人中5人が「違憲」とした。03~04年の計3件の小法廷判決は、いずれも裁判官5人の意見が3対2で合憲となる小差の判断が続き、最高裁の新たな判断が注目されていた。
法制審議会は96年に相続差別の解消を盛り込んだ民法改正案を答申したが、一部議員に反対が強く法案の国会提出は見送られている。非嫡出子の出生割合は00年の1.63%から06年は2.11%に増加し、海外も相続の平等が大勢。竹内裁判官は国会に改正を強く求め、今井裁判官は「立法を待つことは許されない時期に至っている」とまで指摘した。千葉景子法相は改正法案の早期提出に意欲を示している。
著者はイスラム世界の長年の研究者でフィールドワークもおこなっています。
「贔屓の引き倒し」風なところもちょこっとありますが、日本人と違った文化的な背景を持てばこそ、西欧のフィルターを通してではなく直接知ることが大事だと思います。