クリスマスケーキ申し込み受付の店内放送も、お客さまに向けてスタートした。
店内にはツリーも飾られ、すっかりクリスマスムードである。
ほんのわずか5ヶ月前、私がここで働き始めた頃は真夏の7月で、店内放送はウナギの予約受付だったのに・・・。
早いものだ。
私は、しみじみとウナギ三昧の一日を思い出していた。
一日或は二日だけ、鮮魚の応援をしてほしい、と南副店長に頼まれ、お手伝いすることになったのは、働き始めて わずか2週間を過ぎた頃だった。
まだ、グロッサリーの仕事にも、職場のスタッフにも慣れていない頃だったので、 魚屋さんで、全く知らないスタッフと、知らない部署で、知らない仕事をすること自体、緊張そのものだったのだ。
南副店長に案内され、魚屋さんへ行くと、そこのチーフに紹介された。
「何をしたらいいんでしょうか?」
「じゃ、ウナギを包んでもらおうかね~」
と、元気よく返答したのは愛ちゃんという、魚屋さんの人気者おばちゃんである。
お客さんには、威勢よく、
「へい、らっしゃい!」
「サンキュー、ベリーマッチ」
と、英語でハツラツと対応している姿を日々、目撃していた。
まず、愛ちゃんが見本を見せてくれた。
凍ったウナギに付いた氷を拭き、紙に包み、桜ウナギと書かれたパッケージに入れていく・・・。
真夏だというのに、これを一時間も続けたら、手がかじかんで、感覚が麻痺した感じだ。
そこへ ほんの数日前、
「ごめんね、店長室に置いてあった履歴書、見たんよ!」
と、軽いノリで話しかけてきた にーちゃんが現れた。
魚屋さんだったのか。
同じ年齢だと聞いていたので、お友達言葉で話した。
そして・・・。
先ほど副店長から紹介された、魚屋のチーフに向かって、軽いノリの にーちゃんが、なんと命令形で指示を出したのだ
これには、すってんころりんと、滑りそうになるくらい驚いた
ええ~っ
うそお~!
ホント
アルバイトの 兄ちゃんだと思ってた
チーフに命令するということは、チーフより上の上司、ということになる。
バイトの兄ちゃんじゃないんだ。
社員なんだ。
しかも、すっごく偉い人だったんだ。
思わず、顔が引きつった・・・。
その日以来、友達言葉ではなく敬語になったのである。
さて・・・。この日は9時から6時までの勤務時間。
鮮魚では11時から手伝っていたが、ほとんど、この日のウナギとの格闘も終わりに近付いた頃・・・。
グロッサリーの岸辺さんが、予約ウナギを受け取りに来た。
「鈴木さん、大変だったでしょう? あらら、こんなに手が冷たくなって」
私がウナギを手渡す時、 岸辺さんは、私の氷つくように冷え切ってしまった手を握りしめた。
やっ・・・優しい。
「あと、もう少しで終わりね、頑張ってね~」
「は~い、頑張りま・・・す」
私は、実はウナギは嫌いだ。
あの にゅるっとした皮が気持ち悪い。
蛇みたい・・・。
それでも、夏バテにいいので、毎年、身だけ、食べている。
遂に、6時になり、魚屋をあとにした。
私も予約ウナギ2匹をつれて・・・。
南副店長の元へ行くと、
「あっ、お疲れさま。どうでした?あれ 目が赤いですよ!!疲れ・・・た? 大丈夫ですか? 明日は、様子見て、グロッサリーへ呼び戻しますから」
たった、一日、グロッサリーから離れただけなのに、南副店長の顔を見たとたん??懐かしさでいっぱいになった。
岸辺さんといい、南副店長といい、グロッサリーの人達は、なんて心優しいのだろう。
まだ、入ったばかりの私をこんなに いたわって?くれるなんて・・・。
小泉さんじゃないが、感動した。
そして、翌日の朝・・・。
休憩室へ行くと魚屋の愛ちゃんをはじめ、鮮魚のスタッフ、おばちゃんたちがお茶していた。
「昨日は、ありがとね~。ウナギ、包んでくれて」
まず、愛ちゃんが、元気良くそういい、他のおばちゃん達も笑顔をくれた。
売り場へ行くと、おない年の兄ちゃん・・・じゃなかった、偉い人が、
「昨日は、ありがと、手伝ってくれて」
と、おっしゃって?下さった。
魚屋さん達も優しい。
要するに、ここのスーパーで働く人たちは、いい人ばかりなのだ。
あの日から、早、5ヶ月・・・。
今日から半年目に突入する。
出勤前の家でのリラックスタイム・・・。
ちょっと、思い出に浸ってみた私だった。