東京大学大学院農学生命科学研究科藤井壮太助教(兼任JSTさきがけ研究者)と高山誠司教授らの研究グループは、モデル植物のシロイヌナズナから異種の花粉を積極的に排除する雌しべ因子をコードする遺伝子Stigmatic Privacy 1(SPRⅠ1)を発見し、その機能を解析した。
SPRⅠ1遺伝子を欠損した変異株では、通常排除されるはずの異種の花粉が侵入するようになった。SPRⅠ1タンパク質は雌しべの先端で花粉を受け取る部分である柱頭の細胞膜に局在して異種と自種の花粉を識別し、異種のみを排除するメカニズムに関わることを明らかにした。SPRⅠ1遺伝子を欠損した株では異種の花粉の侵入により正常な受精が阻害されることから、SPRⅠ1タンパク質は異種の花粉が混在する野外環境下での種間のせめぎあいにおいて重要な役割を果たすと考えられる。種の壁を司るSPRⅠ1タンパク質を人為的に制御することで種間交雑が容易になり、より広範な地球環境に適応する作物の開発が可能になると期待される。本研究成果は植物生物学分野で最も権威が高い「Nature Plants」誌に掲載される。
種と種の間には生殖障壁がある。特に精細胞と卵細胞が受精する前に起こる種間の不和合性は受精前障壁と呼ばれており、有限の資源を好ましくない子孫に分配することを避けるメカニズムであると考えられてきた。しかし、受精前障壁のメカニズムについてはほとんど未解明だった。
本研究グループはモデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)とアブラナ科の近縁植物種を用いて異種間の交雑試験を行い、同種と異種の花粉を識別するメカニズムの解明を目指した。多くの系統間で種間交雑実験を試したところ、マルコルミア・リットレア(Malcolmia littorea)というアブラナ科植物種の花粉がシロイヌナズナのある系統(Col-0)では排除されるのに対し、別の系統(Cvi-0)では雌しべ内に侵入することを発見した。そこでシロイヌナズナの338種類の野生系統の全ゲノム配列情報を利用し、ゲノムワイド関連解析という統計手法を用いてM.littoreaの花粉の排除能力を決定する原因遺伝子座を探索した。その結果、第4染色体上の単一の遺伝子座が排除能力に大きく寄与することを見いだした。この染色体領域内で雌しべにおいて発現する候補原因遺伝子を破壊した系統では、野生型のCol-0では排除されるはずのM.littoreaの花粉が、雌しべの内部にまで侵入することが明らかになった。この原因遺伝子は雌しべの先端で花粉を受け取る部分である柱頭(Stigma)で「種」の壁として機能すると考えられ、この機能は他者からの侵害を受けない権利(プライバシー)に通じることから、この原因遺伝子をStigmatic Privacy 1(SPRⅠ1)と命名した。SPRⅠ1タンパク質は、雌しべの柱頭でのみ機能し、細胞膜を4回貫通する領域を持つことが示唆された。
半数近くの植物種は、同種内でも自己の花粉とは受精せず、非自己のみと受精して子孫を残す自家不和合性という性質を持っていることが知られている。自家不和合種の雌しべは自己の花粉で受精する自家和合種の花粉は受け入れないが、自家和合種は自家不和合種の花粉を受け入れる「種の一側性不和合性」という現象が1940年代から知られていた。このことは自家和合種においては異種の花粉を排除する能力が失われる傾向にあることを意味しているが、それを説明できる分子は明らかにされていなかった。
本研究ではDNA配列解析によりシロイヌナズナの進化の過程で少なくとも6回SPRⅠ1遺伝子の機能が失われたことを明らかにした。これはシロイヌナズナが自家和合性の獲得によってSPRⅠ1の機能を維持する理由がなくなったことに起因すると考えられた。本研究によりこれまで合理的な説明がなされてこなかった種間の一側性不和合性を分子レベルで説明できるようになった。また、ゲノム編集法を用いた解析により、SPRⅠ1タンパク質は自家不和合性を引き起こす分子メカニズムとは完全に独立した働きを持つことも示した。
さらにSPRⅠ1タンパク質はM.littoreaのみならず、多様な種の花粉の排除に関わることを明らかにした。SPRⅠ1タンパク質の機能を破壊した系統に、自種の花粉を受粉させるより前に異種の花粉を受粉しておくと著しく受精効率が下がることが明らかとなった。動けない植物は昆虫や風などの媒介によって受粉するため、雌しべにはさまざまな花粉が運搬されてくる可能性がある。SPRⅠ1タンパク質は異種の花粉が混在する野外環境下での種間のせめぎあいにおいて重要な役割を果たしていると考えられる。
精細胞と卵細胞の受精に関わる因子として哺乳類ではZP2、CD9、JUNO-ⅠZUMO1、植物ではGCS1、LURE-PRK6などが知られている。同種間ではこれらの雌雄タンパク質の相性が適合していることで受精が成功し、異種間では相性が悪いため受精が失敗することが報告されている。一方で、雌しべが好ましくない花粉を積極的に排除するのがSPRⅠ1タンパク質の働きである。
本研究によって、これまで知られているものとはまったく異なる分子メカニズムで配偶子を選択する仕組みを植物(シロイヌナズナ)が備えていることが初めて明らかになった。
◆用語解説
〇生殖障壁
異なる種の間で、雌雄の配偶子の間に不適合があり、次世代を残すことができなくなるメカニズムの総称。
〇ゲノムワイド関連解析
ある集団において、個体間の形質の違いとDNA配列の違いとの関わりを全ゲノム配列にわたって統計的に検出する解析手法。
〇原因遺伝子座
染色体上で、個体間の形質の違いの原因となる遺伝子が座乗する部位。
〇自家不和合性
植物が自己の花粉と集団内の非自己の花粉を識別して、非自己のみと受精し子孫を作る性質。近親交配による有害な遺伝子の集積を回避し、集団内の遺伝的多様性を保つ効果があると考えられている。アブラナ科ではSP11という花粉タンパク質とSRKという雌しべタンパク質が自分自身のタイプのみと直接的に相互作用することで自己拒絶反応が起こる。
〇種の一側性不和合性
自家不和合性種の雌しべは自家和合性種の花粉を排除するが、その逆は受け入れられるという現象。この現象はアブラナ科を含む広範な植物種で見られることが報告されている。
今日は曇り、空は明るく、時々太陽が顔をだす。
街路の”マサキ”の花が満開だ。花は小さく灰緑色で目立たない。沢山咲いていると白いベールを被った様に見える。花を見るのが久しぶりだ、・・開花期間が短いからかな。
果実は秋に熟し、裂開して橙赤色の仮種皮におおわれた種子が見え、これがとても可愛い、秋が楽しみだ。
名(マサキ)の由来は、何時も緑の常緑樹”マサオキ(真青木)”から”マサキ”となったと言う。刈込みに強く、密生し、大気汚染や潮風にも比較的強いので生垣・庭木などに使われる。
マサキ(柾、正木)
ニシキギ科ニシキギ属
原産地は極東アジアの日本・朝鮮・中国
耐寒性の常緑低木
開花時期は6月~7月
花は数mm程の4弁花、花色は淡緑白色
果実は朔果で、径5~8mm程の球形
熟すると果実は3~4つに割れ、赤橙色の仮種皮に包まれた種子が見える
SPRⅠ1遺伝子を欠損した変異株では、通常排除されるはずの異種の花粉が侵入するようになった。SPRⅠ1タンパク質は雌しべの先端で花粉を受け取る部分である柱頭の細胞膜に局在して異種と自種の花粉を識別し、異種のみを排除するメカニズムに関わることを明らかにした。SPRⅠ1遺伝子を欠損した株では異種の花粉の侵入により正常な受精が阻害されることから、SPRⅠ1タンパク質は異種の花粉が混在する野外環境下での種間のせめぎあいにおいて重要な役割を果たすと考えられる。種の壁を司るSPRⅠ1タンパク質を人為的に制御することで種間交雑が容易になり、より広範な地球環境に適応する作物の開発が可能になると期待される。本研究成果は植物生物学分野で最も権威が高い「Nature Plants」誌に掲載される。
種と種の間には生殖障壁がある。特に精細胞と卵細胞が受精する前に起こる種間の不和合性は受精前障壁と呼ばれており、有限の資源を好ましくない子孫に分配することを避けるメカニズムであると考えられてきた。しかし、受精前障壁のメカニズムについてはほとんど未解明だった。
本研究グループはモデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)とアブラナ科の近縁植物種を用いて異種間の交雑試験を行い、同種と異種の花粉を識別するメカニズムの解明を目指した。多くの系統間で種間交雑実験を試したところ、マルコルミア・リットレア(Malcolmia littorea)というアブラナ科植物種の花粉がシロイヌナズナのある系統(Col-0)では排除されるのに対し、別の系統(Cvi-0)では雌しべ内に侵入することを発見した。そこでシロイヌナズナの338種類の野生系統の全ゲノム配列情報を利用し、ゲノムワイド関連解析という統計手法を用いてM.littoreaの花粉の排除能力を決定する原因遺伝子座を探索した。その結果、第4染色体上の単一の遺伝子座が排除能力に大きく寄与することを見いだした。この染色体領域内で雌しべにおいて発現する候補原因遺伝子を破壊した系統では、野生型のCol-0では排除されるはずのM.littoreaの花粉が、雌しべの内部にまで侵入することが明らかになった。この原因遺伝子は雌しべの先端で花粉を受け取る部分である柱頭(Stigma)で「種」の壁として機能すると考えられ、この機能は他者からの侵害を受けない権利(プライバシー)に通じることから、この原因遺伝子をStigmatic Privacy 1(SPRⅠ1)と命名した。SPRⅠ1タンパク質は、雌しべの柱頭でのみ機能し、細胞膜を4回貫通する領域を持つことが示唆された。
半数近くの植物種は、同種内でも自己の花粉とは受精せず、非自己のみと受精して子孫を残す自家不和合性という性質を持っていることが知られている。自家不和合種の雌しべは自己の花粉で受精する自家和合種の花粉は受け入れないが、自家和合種は自家不和合種の花粉を受け入れる「種の一側性不和合性」という現象が1940年代から知られていた。このことは自家和合種においては異種の花粉を排除する能力が失われる傾向にあることを意味しているが、それを説明できる分子は明らかにされていなかった。
本研究ではDNA配列解析によりシロイヌナズナの進化の過程で少なくとも6回SPRⅠ1遺伝子の機能が失われたことを明らかにした。これはシロイヌナズナが自家和合性の獲得によってSPRⅠ1の機能を維持する理由がなくなったことに起因すると考えられた。本研究によりこれまで合理的な説明がなされてこなかった種間の一側性不和合性を分子レベルで説明できるようになった。また、ゲノム編集法を用いた解析により、SPRⅠ1タンパク質は自家不和合性を引き起こす分子メカニズムとは完全に独立した働きを持つことも示した。
さらにSPRⅠ1タンパク質はM.littoreaのみならず、多様な種の花粉の排除に関わることを明らかにした。SPRⅠ1タンパク質の機能を破壊した系統に、自種の花粉を受粉させるより前に異種の花粉を受粉しておくと著しく受精効率が下がることが明らかとなった。動けない植物は昆虫や風などの媒介によって受粉するため、雌しべにはさまざまな花粉が運搬されてくる可能性がある。SPRⅠ1タンパク質は異種の花粉が混在する野外環境下での種間のせめぎあいにおいて重要な役割を果たしていると考えられる。
精細胞と卵細胞の受精に関わる因子として哺乳類ではZP2、CD9、JUNO-ⅠZUMO1、植物ではGCS1、LURE-PRK6などが知られている。同種間ではこれらの雌雄タンパク質の相性が適合していることで受精が成功し、異種間では相性が悪いため受精が失敗することが報告されている。一方で、雌しべが好ましくない花粉を積極的に排除するのがSPRⅠ1タンパク質の働きである。
本研究によって、これまで知られているものとはまったく異なる分子メカニズムで配偶子を選択する仕組みを植物(シロイヌナズナ)が備えていることが初めて明らかになった。
◆用語解説
〇生殖障壁
異なる種の間で、雌雄の配偶子の間に不適合があり、次世代を残すことができなくなるメカニズムの総称。
〇ゲノムワイド関連解析
ある集団において、個体間の形質の違いとDNA配列の違いとの関わりを全ゲノム配列にわたって統計的に検出する解析手法。
〇原因遺伝子座
染色体上で、個体間の形質の違いの原因となる遺伝子が座乗する部位。
〇自家不和合性
植物が自己の花粉と集団内の非自己の花粉を識別して、非自己のみと受精し子孫を作る性質。近親交配による有害な遺伝子の集積を回避し、集団内の遺伝的多様性を保つ効果があると考えられている。アブラナ科ではSP11という花粉タンパク質とSRKという雌しべタンパク質が自分自身のタイプのみと直接的に相互作用することで自己拒絶反応が起こる。
〇種の一側性不和合性
自家不和合性種の雌しべは自家和合性種の花粉を排除するが、その逆は受け入れられるという現象。この現象はアブラナ科を含む広範な植物種で見られることが報告されている。
今日は曇り、空は明るく、時々太陽が顔をだす。
街路の”マサキ”の花が満開だ。花は小さく灰緑色で目立たない。沢山咲いていると白いベールを被った様に見える。花を見るのが久しぶりだ、・・開花期間が短いからかな。
果実は秋に熟し、裂開して橙赤色の仮種皮におおわれた種子が見え、これがとても可愛い、秋が楽しみだ。
名(マサキ)の由来は、何時も緑の常緑樹”マサオキ(真青木)”から”マサキ”となったと言う。刈込みに強く、密生し、大気汚染や潮風にも比較的強いので生垣・庭木などに使われる。
マサキ(柾、正木)
ニシキギ科ニシキギ属
原産地は極東アジアの日本・朝鮮・中国
耐寒性の常緑低木
開花時期は6月~7月
花は数mm程の4弁花、花色は淡緑白色
果実は朔果で、径5~8mm程の球形
熟すると果実は3~4つに割れ、赤橙色の仮種皮に包まれた種子が見える
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