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山口裕美「観光アート」(光文社新書)への共感と違和感

2010年12月16日 23時35分02秒 | つれづれ読書録
承前)

 この本の30ページに、こうある。

 日本よりも早く成熟化を迎えた欧米で、芸術文化や美術館をテコとした都市再生の成功例が数多く見られるように、都市化や人口成熟化、サービス産業の主力産業化が進むと、文化やアートへの期待や要望が高まる。

 そうした場所では、確実に地域のイメージアップや観光集客による経済効果が起きている。その地域の魅力が増すことによって雇用が増え、出身者が地域に戻る。レジャーや仕事の場としての再生にもつながっていく。さらに、民間からの投資も活発化し、新しいビジネスが生まれたことによる新たな雇用も創出され、住民の地元に対する誇りも育っていく。

 つまり、アートは社会を変革するプラットフォームになるのである。


 ことし行われた瀬戸内や愛知の国際芸術展は、億単位の経済効果があったことが確実視されている。

 しかし、昨年の今頃、札幌で行われたパネルディスカッションで聴衆からの発言は(わたしは出席していないので、また聞きになるけれど)
「そんなものに税金を使うなんて」
というものが多かったらしい。

 さっぽろ雪まつりにも多額の税金が投入されているが、仮に市が自衛隊に制作費を支払ったとしても、全体の経済効果で計算すれば、絶対に黒字であろう。

 21世紀に入り、アートがますますよその土地から人を呼び込むコンテンツになっていくことを理解できない人がまだ多い。
 この本が、そういう後ろ向きの発想の人たちに、新たな認識を開いてくれる役割を果たすことを、祈っている。





 しかし、気持ちは分かるが首肯しがたい部分も、「観光アート」にはある。
 250ページ。

 また、美術館は寄贈に対してもっと慎重になるべきだ、ということ。
ほとんど世間に知られていない地元作家が、膨大な数の作品を寄贈しているケースがそこかしこにあった。美術館の方には申し訳ないが、作品はきちんと吟味して購入を行うべきだ。


 一見、そのとおりだと思ってしまうが、ちょっと待った。
 その「吟味」の基準は「世間に知られている」かどうかなのか。

 違うだろう。
 あくまで、「質」だろう。

 知名度が高いからといって必ずしもその作家が良いとは限らないし、また、その逆もある。

 たとえば、筆者は鵜川五郎を、北方ルネサンスの精神を受け継ぎ20世紀の歴史を鋭く風刺したすばらしい画家だと思っているが、函館近傍の住まいで、しかも全道展を途中で退会していて、あまり個展を開いていないから、道内でも知らない人が多い。
 しかし、世間に知られていないから彼が二流の画家だということには、絶対にならない。そう思うのだ。

 もちろん、著者の真意は「寄贈に甘えるな」ということだろうから、この文章はちょっと揚げ足取りっぽいのだが。 


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