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■モリケンイチ個展「真夜中のサーカス」 (2017年2月15~26日、札幌)2017年2月21日は10カ所(2)

2017年02月27日 22時53分57秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
(承前)

 アップが会期中に間に合わなくて申し訳ございません。

 モリケンイチさんの絵画は、いざ紹介しようとすると、書くことがたくさんあって、なかなか進まないのです(と言い訳)。

 今回の個展で、はじめてモリさんにお会いしました。

 2014年に大同ギャラリーで個展を開いて以来、数々の個展を開く一方、全道展で最高賞に輝くなど、めざましい活躍をみせているモリさんです。
「その年にパリから帰ってきたので。幸い、それ以降、あちこちのギャラリーから声をかけていただいて」
とモリさんは話しておられました。

 今回のテーマは、サーカス。
 とりわけ、動物やピエロではなく、空中ブランコが題材として選ばれています。
 空中ブランコは一歩間違えれば転落が待っています。

 つまり、死と隣り合わせの遊戯なのです。

 今回の個展では、入って左側に、ハイデガーの用語を借りれば、「頽落」をあらわすような絵が、右側には「投企(披投)的存在」を象徴する絵がおもに並んでいるとのことです。
 


 いわれてみれば、描かれた道化師は、死の運命を忘れて凡庸な生き方に堕した存在であるかのようにも見えますし、羽根をつけて岸壁から飛び立とうとしているスーツ姿の中年男は死に恐怖しながらも勇気を振り絞って跳躍せんとしているようにも思われます。

 筆者は、ここがロドスだ、ここで跳べ!、という、マルクス「資本論」の序文の一節を思い出しました。

 もちろん、モリさんの絵は、哲学用語の翻訳ではありません。
 20世紀哲学を代表するハイデガーを知らなくても自由に見ることができます。

 そして、モリさんの作品は、コンセプチュアルな裏づけがあると同時に、相互に対立する観念を止揚する意図がこめられているようでもあります。
 今回の個展の出品作は、西洋の実存哲学が底流にある一方、モリさんの絵には東洋の仏教哲学も支えになっています。
 ここでは詳しくは論じませんが、背景がシンプルな色で処理されていることに抽象画と具象画の止揚を、また、人物の描写には絵画とイラストレーションとの止揚を織り込んでいるようです。


 最後に、ずっと気になっていたことについて聞いてみました。
 昨年の全道展出品作で、秋にト・オン・カフェで開いた個展でも出品されていた「燃える木」という絵のことです。
 あっさり
「ああ、あれはタルコフスキーです」。
(やっぱり…)
「でもタルコフスキーの映画では家が燃えていたけれど、あれは仏教思想の火宅なんじゃないですかね。彼は日本にも興味があったようだし」

 というわけで、モリさんとは時間があったらまた語り合いたいと思ったのでした。


 出品作は次のとおり。

小さなピエロ
fair is foul, and foul is fair(綺麗は汚い 汚いは綺麗)
夜のブランコ
空中ブランコ(同題2点)
縺れのサーカス1
縺れのサーカス2
縺れのサーカス3
綱渡り(前進のサーカス)
飛翔の妾
綱の妾
マボロシの果実
道化師
サーカス(被投性の喜劇)
Calling you
円への憧れ
奇術師
真夜中の寸断
愚者の遊戯 I(頽落の喜劇)
水溜りから大魚
水溜りから大魚 II(頽落の喜劇)
空のカゴ 1
空のカゴ 2
籠女(カゴメ)
花瓶
夜の綱渡り
孤独の劇場


2017年2月15日(水)~26日(日)午前10時~午後6時(最終日~午後4時)、月火休み
茶廊法邑(札幌市東区本町1の1)




・地下鉄東豊線の環状通東駅から約790メートル、徒歩9分

・札幌駅北口か環状通東駅から、中央バス「東64 伏古北口線」「東65 伏古・北13条線」(いずれも東営業所行き)に乗り、「本町1条2丁目」降車。約180メートル、徒歩3分(いずれもおおむね1時間おき)

・中央バス札幌ターミナルから中央バス「26 丘珠空港線」に乗り、「北13条東15丁目」降車。約460メートル、徒歩6分。本数は少なめ。なおこの路線は、環状通東、元町、新道東、栄町の東豊線各駅とも連絡

・地下鉄南北線「北18条駅」から中央バス「東62 本町線」に乗り「本町2条1丁目」から約450メートル、徒歩6分




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