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■土門拳の古寺巡礼 (2012年1月25日~3月25日、釧路)

2012年03月05日 01時18分24秒 | 展覧会の紹介-写真
 日本を代表する写真家、土門拳(1909~90)がライフワークとしたシリーズ「古寺巡礼」に焦点をあてた展覧会。
 作品はすべて、山形県酒田市にある土門拳記念館の所蔵になるもので、展覧会自体は、2011年秋に八王子市夢美術館で開かれたものの巡回である。

 会場はおおむね、カラー→モノクロ→カラーの順で陳列されている。
 180点近くもあるため、じっくり見ていくとかなり時間がかかる。30分や45分では、ちょっとあわただしいと思う。

 さきほど、ライフワークということばを用いた。
 土門拳には、ベストセラーになった「筑豊のこどもたち」や、リアリズム論があるため、社会派というイメージを抱いている向きもあるかもしれない。
 しかし、昭和15年ごろに室生寺をはじめて訪れてから、仏像の魅力にとりつかれ、53年にいたるまで追い続けているのだ。この間の40年近い撮影の成果がこの展覧会に集められているのだから、まさにライフワークと称して差し支えないのではないか。

 会場には、カラー撮影で用いた4×5(「しのご」と俗称される)の大型カメラや、ガラス乾板も展示されている。
 戦争中の古い写真が、まったく経年変化を感じさせないのは、フィルムではなくガラス乾板を用いていたためであるようだ。
 また、カラー写真も、一般的な35ミリカメラではなく、大判であるため、大きく引き伸ばしてもじゅうぶんに鑑賞に耐える画質である。
 それでいて、最近のデジタル写真の持つシャープネスとは、やはりちょっと異なるやわらかさを有しているように思われるのは、気のせいだろうか。

 ところで「古寺巡礼」という題は、いうまでもなく、和辻哲郎の出世作「古寺巡礼」に由来するのだろう。
 図録の巻末に伊藤由美子・八王子市夢美術館館長が寄せた解説によれば、土門拳は旧制中学時代に和辻の本を読んだという。



 写真はどれもすばらしい。
 もちろん、被写体の仏像がすばらしいからであろう。
 しかし、妥協を許さず、構図を考え抜き、雪の室生寺のようになんと撮影まで30年近くも待ったという例もあるくらいだから、土門拳の創意が感銘を生み出しているという部分も大きいだろう。
 ある意味で、これは、仏師の思いを土門拳が最大限に引き出した結果であるといえるのかもしれない。



 どなたか、写真に詳しい方に、少しでよいから説いてほしいのは、入江泰吉との違いについてである。
 おそらく、入江は、奈良を中心に大和、奈良時代の仏像や寺院を撮っており、しかもすべてモノクロだと思う。
 土門のほうは、平安初期の弘仁仏が中心で、関西にとどまらず、大分県の臼杵磨崖仏、鳥取県の三仏寺投入堂、岩手県の中尊寺など、全国を行脚している。今回の展覧会も関西以外で撮った写真がかなりある。




2012年1月25日(水)~3月25日(日)9:30~5:00(入場~4:30)、月曜休み(ただし3月19日は開館)
道立釧路芸術館(釧路市幸町4)
一般500円、高大生300円、小中生100円

【告知】土門拳の古寺巡礼

□釧路芸術館ブログ  http://blog.goo.ne.jp/kushiro-artmu

●ギャラリー・トーク「もっと知りたい土門拳の世界・1」カメラを手にした思想家・土門拳の生涯
=3月1日(木)、9日(金)、17日(土)各日午後2:00
要観覧料

●ギャラリー・トーク「もっと知りたい土門拳の世界・2」対決! 写真家vsモデル~風貌シリーズ~
=3月2日(金)、10日(土)、15日(木)各日午後2:00
要観覧料

●ギャラリー・トーク「もっと知りたい土門拳の世界・3」土門拳がとらえた昭和
=3月3日(土)、8日(木)、16日(金)各日午後2:00
要観覧料



・JR釧路駅から1.2キロ、約15分
・くしろバス「十字街」「十字街7丁目」から約5分
・フィッシャーマンズワーフ「MOO」(長距離バスのバス停あり)から3分


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (asano)
2012-03-05 19:03:58
いいですね、行きたいけど行けないなぁ。。。。
入江さんの作品って、古いのは知らないのですが、カラーの柔らかい表現の作品が多くて、土門拳の強力な個性の強いがりっとした作風とは方向性が違うと思います。
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asanoさん、こんばんは (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2012-03-06 00:17:37
そうなんですか~。入江泰吉の作品は、たまたまモノクロしか見たことがないので…。

しかし、入江さんが「柔」で、土門さんが「剛」だとしたら、あまりにわかりやすい対比で、なんか、笑っちゃいそうですね。
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Unknown (あさの)
2012-03-06 00:56:56
そうですね、入江美術館に確か画像があるはずです。
柔らかい感じですよ。
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Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2012-03-06 11:01:03
入江さんのカラー、早春に見てみたい気がします。
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