北海道の人は野外美術展が好きなのかもしれないと思う。
これまで、作家の手弁当によって、大規模な展覧会が数多く開かれてきた。
しかし「帯広コンテンポラリーアート」が当初予定通りことしの5回目で幕を閉じ、「ハルカヤマ藝術要塞」が胆振管内むかわ町穂別の「ポンベツ藝術要塞」に発展的解消を遂げて、気がつけば、道内で継続的に開かれる野外アート展がひとつもないという、近年ではちょっと例のない事態になりつつある。
こういう危機意識があったかどうかまではわからないのだが、とにかく、札幌市の南側にある私設公園を舞台に、展覧会が始まった。
「アニュアル」とあるから、毎年開いていくつもりなのだろう。
冒頭画像は、kugenuma(港千尋とキオ・グリフィスによるアーティストユニット)のランドアート「垣間みえる糸口」”perceived by the thread’s ends”
焼け焦げた木片を芝生の上にちりばめている。
地上からも、まるでストーンサークルのように木片が並べられ、あたかも祭祀の痕のような印象を受けるが、建物の中ではドローン撮影による、作品の映像(およそ2分)を見ることができ、さらにその印象が強まることになる。
港さんは、あいちトリエンナーレの総合ディレクターとして有名な方であるが、写真家、批評家でもあるほか、ラスコー洞窟などに興味を抱く人でもあり、古代的な精神文化のありかたに、アートを通じて遡及していこうという意図があるのではないかと、筆者は勝手に推測するのだった。
2枚目もkugenumaによる作品。
同題のドローイング。
まるで水面のように見えるが、単に磨かれた白い床の上に、紙の巻物がのべられているのである。
ここは結婚式場だった(あるいは、いまも結婚式場)のだろう。
南側に大きなガラス窓が広がっている。
北側の壁面のニッチには、教会っぽい絵や十字架がはめ込まれていたのかもしれない。
小型パイプオルガンはそのまま置かれていて、スイッチを入れて弾きたくなる衝動にかられた。
白い建築の外には池があり、中島洋さんによるインスタレーション「公平中立」が浮かんでいる。
台風により、当初の意図と違ってしまっているという旨を書いた張り紙があったが、当初の意図というものがどういうものだったのかが明示されていないので、なんともいえない。
ただ、色とりどりのボールが池の上にぷかぷかと浮かんでいる様子は、単純にポップできれいだ。
風によって偏り、動く世論のようにも見えてくる。
中島洋さんといえば、札幌の映画館「シアターキノ」の支配人として、文化関係者なら知らない人はいないと思われる。
昨年の札幌国際映画祭では積極的に参加し、映像関係のイベントが充実する立役者のひとりだったが、その経験が機縁となって、二十数年ぶりに作品づくりに復帰することになったのかもしれない。
筆者はたしか1981年、4プラホールの自主制作映画上映で洋さんの短編を見ており、それ以来の作品拝見ということになる。
この奥には、山田良さんのインスタレーション「107㎥のパビリオン」があった(㎥ は立方メートルの記号)。
例によって建築物ふうの制作物だったが、台風に飛ばされて当初のものよりは規模を縮小しているらしい。
映像をインターネットにアップしているという告知もあったが、筆者のパソコンからは見ることができなかった。
(追記。https://vimeo.com/285701723 で美しい映像を見ることができます。たしかに、当初は、筆者が見たものよりも大きいです)
3枚目の画像は、祭の妖精・祭太郎「まさみかのかみさま」。
手前の顔ハメ看板は、遠くからだと、スマートフォンを巨大化したものにも見える。
背後のテントの前にはおみこしのようなものが鎮座しているが、みこしの中に並べられているのは、子どもがおもちゃとして遊ぶ指人形の数々。
祭太郎は、あえて「成熟」を回避しつづけているようなところがあるように筆者には感じられるのだが、この作品にもそんなところがある。
テントはおそらく、彼が毎年参加しているロックの祭典「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に持ち込んでいるものだろう。
札幌の南と北…。
4枚目は高橋喜代史「傾いた看板」。
この看板の「助けて!」は、欧洲を中心に世界を騒がせている難民問題にアプローチしていることは、これまでの作品と同様だろう。
ただし、大きな工事用機械に支えられて、斜めに設置されているというのは、何かを含意していそうだ。
このほか、木本圭子(広島)、土田俊介(明星大学デザイン学部准教授/山梨)、東方悠平(青森県八戸市)、高石晃(東京)の美術家の各氏も出品。
土田さんの作品は、バックミンスター・フラーのドームのような骨組みと外観をした、水に浮かぶ立体。
東方さんは、天狗のお面をした小便小僧3体が勢いよく小便を池に放出。また「開拓資料室」では映像を上映していた。
高石さんは、大きな灯籠の手前の地面に、直方体に近い、階段つきの巨大な穴を掘った。「もの派」的ともいえなくもない作品。
木本さんは、茶室の扉がしまったままで、見ることはできなかった。
当初設定されていた入場料は300円だったが、筆者が行ったときは、台風・地震からの復旧再開後で、入場無料になっていた。
2018年8月11日(土)~9月15日(土)午前10時~午後7時
紅櫻公園(札幌市南区澄川)
□ https://www.benizakura.jp/baa2018/
・地下鉄南北線「自衛隊前駅」から約1.6キロ、徒歩21分
・中央バス「西岡4条14丁目」から約980メートル、徒歩13分(札幌駅前から「79」「83」もしくは地下鉄東西線月寒中央駅から「82」に乗り、いずれも終点で降車。地下鉄南北線澄川駅で「澄73 西岡環状線」に乗り継ぎ「西岡4条14丁目」で降りても可。西岡先回り、澄川先回り、いずれに乗っても所要時間はほぼ同じ)
これまで、作家の手弁当によって、大規模な展覧会が数多く開かれてきた。
しかし「帯広コンテンポラリーアート」が当初予定通りことしの5回目で幕を閉じ、「ハルカヤマ藝術要塞」が胆振管内むかわ町穂別の「ポンベツ藝術要塞」に発展的解消を遂げて、気がつけば、道内で継続的に開かれる野外アート展がひとつもないという、近年ではちょっと例のない事態になりつつある。
こういう危機意識があったかどうかまではわからないのだが、とにかく、札幌市の南側にある私設公園を舞台に、展覧会が始まった。
「アニュアル」とあるから、毎年開いていくつもりなのだろう。
冒頭画像は、kugenuma(港千尋とキオ・グリフィスによるアーティストユニット)のランドアート「垣間みえる糸口」”perceived by the thread’s ends”
焼け焦げた木片を芝生の上にちりばめている。
地上からも、まるでストーンサークルのように木片が並べられ、あたかも祭祀の痕のような印象を受けるが、建物の中ではドローン撮影による、作品の映像(およそ2分)を見ることができ、さらにその印象が強まることになる。
港さんは、あいちトリエンナーレの総合ディレクターとして有名な方であるが、写真家、批評家でもあるほか、ラスコー洞窟などに興味を抱く人でもあり、古代的な精神文化のありかたに、アートを通じて遡及していこうという意図があるのではないかと、筆者は勝手に推測するのだった。
2枚目もkugenumaによる作品。
同題のドローイング。
まるで水面のように見えるが、単に磨かれた白い床の上に、紙の巻物がのべられているのである。
ここは結婚式場だった(あるいは、いまも結婚式場)のだろう。
南側に大きなガラス窓が広がっている。
北側の壁面のニッチには、教会っぽい絵や十字架がはめ込まれていたのかもしれない。
小型パイプオルガンはそのまま置かれていて、スイッチを入れて弾きたくなる衝動にかられた。
白い建築の外には池があり、中島洋さんによるインスタレーション「公平中立」が浮かんでいる。
台風により、当初の意図と違ってしまっているという旨を書いた張り紙があったが、当初の意図というものがどういうものだったのかが明示されていないので、なんともいえない。
ただ、色とりどりのボールが池の上にぷかぷかと浮かんでいる様子は、単純にポップできれいだ。
風によって偏り、動く世論のようにも見えてくる。
中島洋さんといえば、札幌の映画館「シアターキノ」の支配人として、文化関係者なら知らない人はいないと思われる。
昨年の札幌国際映画祭では積極的に参加し、映像関係のイベントが充実する立役者のひとりだったが、その経験が機縁となって、二十数年ぶりに作品づくりに復帰することになったのかもしれない。
筆者はたしか1981年、4プラホールの自主制作映画上映で洋さんの短編を見ており、それ以来の作品拝見ということになる。
この奥には、山田良さんのインスタレーション「107㎥のパビリオン」があった(㎥ は立方メートルの記号)。
例によって建築物ふうの制作物だったが、台風に飛ばされて当初のものよりは規模を縮小しているらしい。
映像をインターネットにアップしているという告知もあったが、筆者のパソコンからは見ることができなかった。
(追記。https://vimeo.com/285701723 で美しい映像を見ることができます。たしかに、当初は、筆者が見たものよりも大きいです)
3枚目の画像は、祭の妖精・祭太郎「まさみかのかみさま」。
手前の顔ハメ看板は、遠くからだと、スマートフォンを巨大化したものにも見える。
背後のテントの前にはおみこしのようなものが鎮座しているが、みこしの中に並べられているのは、子どもがおもちゃとして遊ぶ指人形の数々。
祭太郎は、あえて「成熟」を回避しつづけているようなところがあるように筆者には感じられるのだが、この作品にもそんなところがある。
テントはおそらく、彼が毎年参加しているロックの祭典「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に持ち込んでいるものだろう。
札幌の南と北…。
4枚目は高橋喜代史「傾いた看板」。
この看板の「助けて!」は、欧洲を中心に世界を騒がせている難民問題にアプローチしていることは、これまでの作品と同様だろう。
ただし、大きな工事用機械に支えられて、斜めに設置されているというのは、何かを含意していそうだ。
このほか、木本圭子(広島)、土田俊介(明星大学デザイン学部准教授/山梨)、東方悠平(青森県八戸市)、高石晃(東京)の美術家の各氏も出品。
土田さんの作品は、バックミンスター・フラーのドームのような骨組みと外観をした、水に浮かぶ立体。
東方さんは、天狗のお面をした小便小僧3体が勢いよく小便を池に放出。また「開拓資料室」では映像を上映していた。
高石さんは、大きな灯籠の手前の地面に、直方体に近い、階段つきの巨大な穴を掘った。「もの派」的ともいえなくもない作品。
木本さんは、茶室の扉がしまったままで、見ることはできなかった。
当初設定されていた入場料は300円だったが、筆者が行ったときは、台風・地震からの復旧再開後で、入場無料になっていた。
2018年8月11日(土)~9月15日(土)午前10時~午後7時
紅櫻公園(札幌市南区澄川)
□ https://www.benizakura.jp/baa2018/
・地下鉄南北線「自衛隊前駅」から約1.6キロ、徒歩21分
・中央バス「西岡4条14丁目」から約980メートル、徒歩13分(札幌駅前から「79」「83」もしくは地下鉄東西線月寒中央駅から「82」に乗り、いずれも終点で降車。地下鉄南北線澄川駅で「澄73 西岡環状線」に乗り継ぎ「西岡4条14丁目」で降りても可。西岡先回り、澄川先回り、いずれに乗っても所要時間はほぼ同じ)
こちらでご覧いただけます
よろしければご高覧ください
https://vimeo.com/285701723