(承前)
7月4日から9月6日まで開かれる予定だった「古代エジプト展」が新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止になってしまい、道立近代美術館は、もっぱら特別展に使われ「古代エジプト展」会場となるはずだった右側の展示室も、おもにコレクションの展覧会に用いられる左側の展示室も、いずれもコレクション展が開かれるというめずらしい状態になっています。特別展がまるごと中止になってしまったことは、1977年の開館以来はじめてではないでしょうか。
すべてコレクション展というのはいささか地味な印象がありますが、見方を変えれば全館を510円(高大生250円、中学生以下無料)で鑑賞できるのですからお得だということもできます。
8月14日の北海道新聞夕刊カルチャー面には好意的に紹介されていました。
もっとも、そこで書かれていた、搬入が大変だという話は、見る側にはあまり関係ないような気もしますが、そういう裏話を好きな向きもあるのかもしれません。
左側の1階の前半は「わたしと絵のあいだに」。
寄託作品の野田弘志「THE-8」以外の10点は、すべて20世紀の絵画です。
帯広の風景画家、能勢真美「初秋の庭」の前に薄い布を天井からたらしてみたり、深井克美「自画像」を鏡にうつしてみたり、いつもと異なる展示方法の作品がありますが、これが自分と絵画作品のあいだや、絵を見るという行為についてつながることになるという理由が、よくわかりませんでした。
ほかに
久保守「木馬のある風景」
徳丸滋「森」
鹿子木孟郎「裸婦」
ブリジット・ライリー「VIVA」
花田和治「海 I」
小野州一「月」
岸本裕躬「乗客(1)」
俣野第四郎「静物(2)」
1階の後半は「ひと・ヒト・人」。
群像をモティーフにした絵が17点。抽象的な作品や、ガラスの半立体(ダナ・ザーメチニーコヴァ「私の家族」)もあります。
また、彫刻が2点あり、冒頭画像は後藤良二の「空間の格子」。このほか、山内壮夫の石膏像「子を守る母たち」は、同美術館の前庭にある作品と同じものでしょう。
後藤良二は名寄出身なんですね。
ふだん道庁赤れんが庁舎に展示されている岩橋英遠「阿寒湖畔の松浦武四郎」、久保守「開拓計画を練る」、片岡球子「函館街頭風景」の3点が、同庁舎の改修工事のためこちらで展示されているのが珍しいです。
画力的には、岩橋英遠の勝ちかなあ。
比べてみると、人物の肢体の描き方や線が、他の2人よりも自然です。
画面下方、アイヌ民族に道案内されて湖畔を歩く武四郎が描かれています。上のリンク先でも
「8人のうち6人はアイヌ民族で、武四郎に指さして道を教えるさまが威厳ある様子に描かれています。これは、アイヌ民族からも異論はない描写だと思われます」
と書きました。
このほか、
木村多伎子「ベナレスの地」
寺崎広業「歳の市」
田中良「歳の市(A)」
山田義夫「人梯」
伏木田光夫「人間の季節―晩餐」
田中忠雄「アリマタヤのヨセフの行い」
国松登「横切る人々」
菊川多賀「森」
月岡栄貴「和楽」
熊谷明宏「トリオ・サウンズ」
郭徳俊「無意味972」
米谷雄平「あなたはだれですか又は複眼の旅」
桂川寛「螺旋階段B」
国松の絵は、砂漠をゆく難民の列を思わせ、他の作品よりも射程の長さを感じさせるようでした。
現代の人々の運命を象徴しているかのようです。
こちらでいちばん新しい絵は桂川寛の2003年。
また寺崎の日本画は1898年(明治31年)で、他はすべて20世紀の作品です。
企画する学芸員や美術館のせいではないのですが、とにかく予算に乏しく、現代の作品を購入できない道立美術館の悲哀を感じざるを得ません。
そして、せっかくの展覧会テーマなのに、たとえば群衆論や、近年論じられているマルチチュード論などにもまったく関係してくる気配がなく、個人的にはもう少し深掘りしてほしい思いもありました。群衆、ストリート、権力というのは、古くて新しいテーマです。ただ、やはりこのコレクションでは、そのような議論を展開するのは、いささか厳しく、ないものねだりなのかなという感じもしました。
2020年7月4日(土)~9月6日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前)
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館前」で降車、すぐ(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分
・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約400メートル、徒歩5分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(JR札幌駅―西28丁目駅)「58 北5条線」(JR札幌駅―琴似営業所)で「北5条西17丁目」降車、約540メートル、徒歩7分
・ジェイアール北海道バス「50 啓明線」「51 啓明線」「53 啓明線」(JR札幌駅―啓明ターミナル)で「南3条西16丁目」降車、約830メートル、徒歩11分
7月4日から9月6日まで開かれる予定だった「古代エジプト展」が新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止になってしまい、道立近代美術館は、もっぱら特別展に使われ「古代エジプト展」会場となるはずだった右側の展示室も、おもにコレクションの展覧会に用いられる左側の展示室も、いずれもコレクション展が開かれるというめずらしい状態になっています。特別展がまるごと中止になってしまったことは、1977年の開館以来はじめてではないでしょうか。
すべてコレクション展というのはいささか地味な印象がありますが、見方を変えれば全館を510円(高大生250円、中学生以下無料)で鑑賞できるのですからお得だということもできます。
8月14日の北海道新聞夕刊カルチャー面には好意的に紹介されていました。
もっとも、そこで書かれていた、搬入が大変だという話は、見る側にはあまり関係ないような気もしますが、そういう裏話を好きな向きもあるのかもしれません。
左側の1階の前半は「わたしと絵のあいだに」。
寄託作品の野田弘志「THE-8」以外の10点は、すべて20世紀の絵画です。
帯広の風景画家、能勢真美「初秋の庭」の前に薄い布を天井からたらしてみたり、深井克美「自画像」を鏡にうつしてみたり、いつもと異なる展示方法の作品がありますが、これが自分と絵画作品のあいだや、絵を見るという行為についてつながることになるという理由が、よくわかりませんでした。
ほかに
久保守「木馬のある風景」
徳丸滋「森」
鹿子木孟郎「裸婦」
ブリジット・ライリー「VIVA」
花田和治「海 I」
小野州一「月」
岸本裕躬「乗客(1)」
俣野第四郎「静物(2)」
1階の後半は「ひと・ヒト・人」。
群像をモティーフにした絵が17点。抽象的な作品や、ガラスの半立体(ダナ・ザーメチニーコヴァ「私の家族」)もあります。
また、彫刻が2点あり、冒頭画像は後藤良二の「空間の格子」。このほか、山内壮夫の石膏像「子を守る母たち」は、同美術館の前庭にある作品と同じものでしょう。
後藤良二は名寄出身なんですね。
ふだん道庁赤れんが庁舎に展示されている岩橋英遠「阿寒湖畔の松浦武四郎」、久保守「開拓計画を練る」、片岡球子「函館街頭風景」の3点が、同庁舎の改修工事のためこちらで展示されているのが珍しいです。
画力的には、岩橋英遠の勝ちかなあ。
比べてみると、人物の肢体の描き方や線が、他の2人よりも自然です。
画面下方、アイヌ民族に道案内されて湖畔を歩く武四郎が描かれています。上のリンク先でも
「8人のうち6人はアイヌ民族で、武四郎に指さして道を教えるさまが威厳ある様子に描かれています。これは、アイヌ民族からも異論はない描写だと思われます」
と書きました。
このほか、
木村多伎子「ベナレスの地」
寺崎広業「歳の市」
田中良「歳の市(A)」
山田義夫「人梯」
伏木田光夫「人間の季節―晩餐」
田中忠雄「アリマタヤのヨセフの行い」
国松登「横切る人々」
菊川多賀「森」
月岡栄貴「和楽」
熊谷明宏「トリオ・サウンズ」
郭徳俊「無意味972」
米谷雄平「あなたはだれですか又は複眼の旅」
桂川寛「螺旋階段B」
国松の絵は、砂漠をゆく難民の列を思わせ、他の作品よりも射程の長さを感じさせるようでした。
現代の人々の運命を象徴しているかのようです。
こちらでいちばん新しい絵は桂川寛の2003年。
また寺崎の日本画は1898年(明治31年)で、他はすべて20世紀の作品です。
企画する学芸員や美術館のせいではないのですが、とにかく予算に乏しく、現代の作品を購入できない道立美術館の悲哀を感じざるを得ません。
そして、せっかくの展覧会テーマなのに、たとえば群衆論や、近年論じられているマルチチュード論などにもまったく関係してくる気配がなく、個人的にはもう少し深掘りしてほしい思いもありました。群衆、ストリート、権力というのは、古くて新しいテーマです。ただ、やはりこのコレクションでは、そのような議論を展開するのは、いささか厳しく、ないものねだりなのかなという感じもしました。
2020年7月4日(土)~9月6日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前)
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館前」で降車、すぐ(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分
・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約400メートル、徒歩5分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(JR札幌駅―西28丁目駅)「58 北5条線」(JR札幌駅―琴似営業所)で「北5条西17丁目」降車、約540メートル、徒歩7分
・ジェイアール北海道バス「50 啓明線」「51 啓明線」「53 啓明線」(JR札幌駅―啓明ターミナル)で「南3条西16丁目」降車、約830メートル、徒歩11分
(この項続く)