でかい。
高さ約4.2メートルとのこと。
この会場で見た全作品で最大だと思います。
かなりの広角レンズがないと、1枚に収まりきれないほどです(なので、2枚に分割しました)。
テンポラリースペースは古民家改造のギャラリーなので、壁・床面積は決して広くありませんが、2階の床の一部を取り払って吹き抜けにしているため、こういう芸当ができるのでしょう。
ちなみに、3枚目の画像は、2階の吹き抜け回廊から階下を見下ろす角度で撮った写真です。
谷口さんは1976年、札幌生まれ。
21世紀に切り替わる頃から「凹み(Hecomi)」に着目した制作を、おもにベルリンを拠点に行ってきました。
凹みとは、道路の舗装や建物の壁面が風化するなどしてできたひび割れやくぼみのことです。今回は、ベルギーなどの建築物の柱を、シロアリが食べた跡を題材にした「白蟻さん、ありがとう」という連作もありました。
谷口さんはそれらの凹みをトレースし、その形状を黄色い樹脂の板に起こします。
そこでおしまい、ではなく、黄色い板にちょうつがいなどを随所に付けて折りたたむことで、立体作品に仕立てます。
作品自体は、札幌文化芸術交流センター SCARTS の吹き抜けや2階の壁面にどーんと設置されていますし、2015年の
自身のサイトには
<これら採取した2次元の形を自身に与えられた課題として捉え、モデリングやカーヴィングという従来の彫刻造形手段ではなく、「平面を折り畳む」という手法で、三次元の造形を研究しています。>
とあります。
現代アート寄りの手法を用いながらも、あくまで「彫刻」とか「立体造形」という意識があるようです。
(しかし、よく考えたら、作者の意図しない形状をもとに創作を続けるという姿勢は、例えば石彫にも共通するんだよな)
この大作は、札幌市と石狩市の境界に近い茨戸川(旧石狩川)で、自然との調和を図った石狩川の治水計画を明治期にまとめた若手技師の岡崎文吉が設計した護岸ブロックから採取した凹みで制作した「岡崎文吉のための凹みスタディ」です。
ただ、作品の下部は、作者が創造した形です(この半円形がないと、床の上に置こうとすると彫刻本体への負荷が大きすぎる)。
ちなみに、案内状の写真は、まず1/3スケールで作ったもの。
これまで3ミリ厚の板を用いてきた作者ですが、6ミリや9ミリ厚の板も随所に使って強度を上げ、大作に仕上げました。
2015年に、本郷新記念札幌彫刻美術館で開いた個展で、吹き抜けにつるした大作(■本郷新記念札幌彫刻賞受賞記念 谷口顕一郎展 凹みスタディ―札幌― 1に写真あります)とおなじ凹みに拠るとのことで、折りたたみ方によってずいぶんと印象が異なるものだなあ~と、驚きました。
2階の回廊部分にも小品が置かれています。
会場の外から見ても、黄色は目立ちます。
ところで、この作品のもとになった凹みを採取した場所が、本郷新記念札幌彫刻美術館につながる場所であることについては、そのときの個展に際して書いたブログ(下記のリンク先のその1,その2を参照)に詳述しましたが、もちろんこの会場とも無縁ではありません。
凹み採取地の茨戸は、旧琴似川が旧石狩川に合流する地点です。
その支流のひとつが、彫刻美術館のすぐ近くを流れているのですが、別の支流である「サクシュコトニ川」は、テンポラリースペースにほど近い北大の構内を流れています。
SCARTS の作品とも同様に、これらは札幌を形作った川がテーマになっています(琴似川というと、琴似を流れているという先入観を持つ人もいそうですが、知事公館の中の川や、植物園や道庁の池などは、もとはみな琴似川の支流です)。
下半分の半円形について
「石狩川を行き来していた外輪船みたいですね」
と言うと、
「みんなそれを言うんですよ~」
と作者。
小さな琴似川の流れから、作品世界は北海道の母なる石狩川へと続いていくようです。
(と、乞うご期待、みたいな締めくくりになってしまいました)
2021年12月11日(土)~19日(日)午前11時~午後7時、月曜休み
TEMPORARY SPACE (札幌市北区北16西5)
Ken'ichiro Taniguchi https://kenichirotaniguchi.com/
ブログ 凹みスタディ https://hecomi.exblog.jp/
過去の関連記事へのリンク
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07年11月6日
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