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■20th 春陽会道作家展(絵画部) =11月29日まで

2008年11月27日 21時32分04秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 春陽会は歴史の長い全国規模の団体公募展。
 版画部門にも道内在住・ゆかりの会員は多いが、毎年道内作家展を札幌で開いて、春の本展に備えているのは絵画部である。

 ことしも時計台ギャラリーの2階を3室すべて使用しているが、会員の作品はC室に集まっている。


 安田完「漂」(変60)
 安田さんは網走管内美幌町在住。ここ数年は、キリスト教に題材を得ながらも、陰影のはっきりした近世洋画とも素朴な中世西洋画とも異なる、フラットでややユーモラスな味わいの作品で新境地をひらいていたという印象があるが、ことしは、90年代の画風にやや戻った感がある。
 縦長の画面。沖合をのこしてほぼ一面流氷に覆われた海の上に、黒い布で覆われ荒縄でぐるぐる巻きにされた人体が置かれているのだ。そろえた足が手前、頭部が奥-という、まっすぐなスタイルは、アンドレア・マンテーニャ「死せるキリスト」を想起させる。
 それが人体であることを示すのは、画面手前、布の間からのぞくはだしの両足のみ。あとは、男か女か、どんな顔をしているのかなど、まったくわからない。胸のあたりで、縄の間から黒い布がわずかに盛り上がっているところから察して女性のようにも思えるが、そうなるとこの像はトルソになってしまう(腕の存在を思わせるものが左右にない)。とすれば、この人物は胸の前で両手を組み合わせているのかもしれない。
 しかし、どう推察したところで、推察にはかわりない。極寒の氷上でなすすべなく縛られ、氷とともに漂う姿は、よるべなき現代人(すなわち、わたしたち)のアレゴリーのようにも見える。
 重たい作品だ。

 会員では、長老格の谷口一芳(札幌)が健在。「象」(S50)は、木の根とも象の頭部とも見えるふしぎな茶色の塊の上にフクロウが止まっているさまを描く。茶色の塊も鳥のようであり、鳥を愛することで夢幻的な空間にまで達してしまう谷口さんの力は、健在である。
 八木伸子(札幌)、宮西詔路(函館)、折登朱実(札幌)、崎山かづこ(札幌)の各会員も出品しており、6人全員が顔をそろえるのはめずらしいのではないだろうか。

 石畑靖司(函館)「ストーンワークス(2)」(F130)
 石畑さんといえば、横浜美術館のエントランス空間に題材を得たようなかっちりとした画面を思い出す。作品が、「これが透視図法でござい」と主張しているかのような、揺るぎのない構図だった。それが、いつからこんな、さまざまな色をぶちまけたような抽象画に転換していたのだろう。
 画面の中には、とくにかたちらしきものは描かれておらず、多様な色が不規則に配されている。ただし、全体としては白の割合が多いように見受けられる。

 川真田美智子(札幌)「CLOUSE」(S100)
 川真田さんも画風が変化したようだ。抽象画であることは同じだが、以前のような荒々しいタッチと色彩は影をひそめ、寒色を中心とした、激しい動きのない画面になっている。

 豊嶋章子(札幌)「夕」「あの夏の…」(F100)
 壁と窓のみが描かれたシンプルな室内に、白い器が置かれている-という、どこかモランディ的な舞台装置は変わっていないが、灰色を基調とした色彩に微妙な変化がみられる。薄いイエロー・オーカー系が効果的に、背景に配されているのだ。有彩色が出てきたからといって、穏やかな全体のトーンを壊してはおらず、むしろ空間を豊かにしているように感じられる。

 このほか、小黒雅子(函館)、奥山哲三(札幌)は安定した水準の作。
 佐藤愛子(函館)は、抽象に転じてからのほうが好きだ。ことしの「ころんだだんな」は、黒の差し入れ方がうまいと思う。
 平間文子(旭川)「芽吹く根アマリリス」、新出リエ子(札幌)「継ぐ」を見ていると、植物が持つ根源的なエネルギーがキャンバスに込められているように感じる。生命のあふれる絵だと思う。


 ほかに、会友として荒川敬子(札幌)、奥田順子(北斗)、小原敦美(渡島管内森町)、加藤卓司(函館)、斉藤啓子(十勝管内新得町)、佐藤史奈(札幌)、山形和子(函館)、山本周子(札幌)、吉本勝子(函館)、一般として新井絹恵(旭川)、川股正子(函館)、芳賀雪子(伊達)、みずきひろこ(札幌)の各氏が所属している。


2008年11月24日(月)-29日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A

・29日午前11時から午後3時ごろまで本州から会員を招いて、会場で研究会を開く


□春陽会サイト http://www.shunyo-kai.or.jp/

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