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■チカップ美恵子展 カムイの言霊―物語が織り成すアイヌ文様刺繍 (1月27日まで)

2010年01月28日 00時12分26秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 アイヌ語で「鳥」という意味を持つチカップ美恵子さん(1948年釧路生まれ、札幌在住)の作品展。
 彼女は「肖像権裁判」などを通じて、民族の権利拡大に奔走してきたが、今回の作品展では刺繍ししゅうを中心に、彼女の保管してきた各種資料や、道内の社会派写真家の草分けでアイヌ民族の写真も数多く撮影してきた故・掛川源一郎さんの写真なども展示し、さらにアイヌ語の民謡のテープなども流して、立体的な展示になっている。
 刺繍は、アツシが三つ天井からつるされ、ポシェットなどはガラスケースに収められているが、大半は、段ボールでこしらえたとおぼしき背の高い円柱に貼り付けてある。これが、会場全体を、壁面だけではない、躍動感あるものにしている。

 貸し館とあって会期は短いが、アイヌ文化の現在にふれることができる貴重な機会といえるだろう。

 また、チカップさんは白血病のため入院中とのこと。一日も早い快癒を祈りたい。



 会場で思ったこと。
 アイヌ文様刺繍というのは、あまり個人差のない作物である。
 作者の名前を前面に出しているのはめずらしい。
 といって、鑑賞にあたって作者の固有名はほとんど参考にならない。いったいどうやって見たらよいのか、いささか困惑したことを素直に告白しておこう。
 まあ、べつに作者名を気にしなければいいのかもしれない。

 もう一点。
 円柱のぐるりに展示された刺繍には、沖縄や米国で買い求めた布に糸を通した作品がけっこうある。
 「既製品に刺繍するなんて、純粋なアイヌ文化とはいえないのではないか」
などと了見の狭いことは、筆者は言わない。
 純粋な文化などというものはない。文化とは、文化圏と文化圏、共同体と共同体の接点にしか立ちあらわれないものだからだ。変容や影響関係のない文化なぞ、頭の中の空想にしか存在しないものなのだ。


 筆者が好きなアイヌ文化は音響に関するものだ。
 ユーカラの一節を生で聴いたときが、これまでアイヌ文化に接したなかで最も感動した瞬間であった。
 アイヌ文化はどうしても人権とか民族問題といった概念の枠内で語られることが多かったと思う。それはやむをえない。ただ、そういう枠を取っ払ったところで、純粋に親しむ機会は、もっとあってしかるべきだと思う。
 

 
2010年1月21日(木)~27日(水)9:30-5:00(入館-4:30)、月曜休み
北海道立文学館(札幌市中央区中島公園)



・地下鉄南北線「中島公園」駅の3番出口から徒歩5分
・同「幌平橋」駅から徒歩7分
・中央バス、ジェイアール北海道バス「中島公園入口」から徒歩4分
・市電「中島公園通」から徒歩8分


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