自然はいつも、強さの裏側に脆さを秘めている。そして私が魅かれるのは、生命の持つその脆さの方だ。アラスカの大地は、忘れていた人間の脆さをそっと呼び覚まさせてくれる。(「長い旅の途上」)
アラスカなどの大自然をとらえた写真と、優しさのにじみでるエッセーで、急逝から10年余りたった今も評価の高い星野さんの写真展。おとろえぬ人気を証明するかのように、会場には大勢の人がいた。
筆者は、1999年に丸井今井で彼の写真展を見て、完全に打ちのめされ、4500円の写真集を即座に買い求めたほどなので、今回も期待して出かけたが、やはり、ことばにならない感動に襲われた。
ホッキョクグマ、カリブーの群れ、シロフクロウ、グリズリー(クマ)、海面に躍り上がるザトウクジラ、そしてツンドラの植物…。
さらに、思いのままに蛇行する川、流氷…。
長い間のアラスカ生活で撮りためた中から選りすぐった写真ばかりで、迫力と、優しさとに満ちている。
今回の写真展の特徴その1。
ふつうの写真展では見られないほど、それぞれのパネルがでかい。
そんなに引き伸ばしても、さほど画質が低下していないのは、技術の確かさゆえだろう。
極寒の地でシャッターを切るのは、大変である。
カメラの電池の損耗が激しくなるし、あまり寒いとフィルムがぱりんと割れてしまうから、フィルム交換はすばやくやらなくてはいけない。
そんなハードな環境で、星野さんは、ホッキョクグマの表情を豊かに撮っている。
たまたま会場にいたKさん(星野さんの友人で、彼についての本も出している)が「ホッキョクグマは気性が荒いと聞いている。どうやって撮ったんだろう」
と目を丸くしていた。
その2。
星野さん自身が写った写真がけっこうあること。
焚火やテントの前で三脚を立ててセルフタイマーで撮ったのか、それとも、撮影に同行した友人がシャッターを押したのか、わからないが。
もし、本人が組織した展覧会なら、これほど多くの自画像は入れないだろうけど、彼の優しさにあふれる表情が見られるのは、悪くない。
彼のエッセーには、アラスカの友人たちの話がずいぶんあるが、今回の写真展にかぎっていえば、人間が登場する写真はあまり多くなくて、最後のコーナーにまとめられている。先住民族以外はほとんどフレームに入っていない。
その近くには、撮影日誌のノートや、少年時代の彼をアラスカに導いた写真集など、貴重な品も展示されている。
また、会場のあちらこちらに、星野さんの本から引いたことばが掲げられている。
ところで、どうして星野さんの写真が感動的なのか、考えてみたことがある。
ひとつ思いついた理由は、アラスカの太陽光線の角度が低いことだ。
夕暮れの光のなかで見た風景が、なつかしさを誘うのとおなじで、斜めの、ちょっと赤みがかった光線のなかにいるホッキョクグマやアザラシは、はじめて見る光景なのに、なつかしさを覚えさせるのではないだろうか。
でも、それだけではないだろう。
やっぱり、過酷な自然環境の中で必死に生きる生命の姿が、見る者に畏敬の念を引き起こすのだ。
最後に、おなじ本(遺稿集)の中から、彼のことばを引いておきたい。
きびしい季節の中で、ひたむきに生きているこの土地の生き物たちの姿が僕は好きだ。
あすまで。ぜひ。
12月27日(水)-1月8日(月) 元日休み
27-30日と3-7日 10:00-19:30(閉場は30分後)、31日10:00-17:30(同)、2日9:00-18:30(同)、最終日10:00-16:30(同)
大丸札幌店(中央区北5西4)7階ホール
□星野道夫公式サイト
当方も昨日見て来ました。
星野道夫さんの文章が、会場のパネル展示にあわせて
あちこちに紹介されていましたが、
昔愛読した文章もたくさんあって、改めて懐かしかったです。
ここに引用したくて「旅をする木」その他を探したけれど、すぐにはみつかりませんでした。
昨日会場で見た文章にもありましたが、
文章も写真も含めて、「出会った」といことは、
「出会った自分が何か変わっていく」という形で
人生の中で確かに残っているような気がします。
今年もヨロシクお願いします。
梁井さんも星野道夫の写真に感動し身動きできなくなったという行を見て,うれしくなって思わず書き込みしてしまいました。星野道夫つながりでこれからますます,このネット楽しませて頂きます。
コメントならびにトラバがえし、ありがとうございます。
星野さんは写真もいいけれど、文章もいいんですよねえ。
むつかしいことばや気取った言い回しはしないのに、心に沁みます。
>Usagicchiさん
以前、書き込みしていただいたような記憶がありますが…。
写真集4冊はすごい! 私なんか1冊でも勇気がいったのに(笑)。
これからもよろしくお願いします。
>sueさん
おひさしぶりです。
あのホッキョクグマの接近写真はびっくりでした。
愛機はペンタの6×7でしたか。
ニコンのF3を使っていたという文章を読んだことがあって、35ミリでここまで引き伸ばせるか!?と思っていたので、ちょっと疑問が氷解しました。
こちらのブログには宝がいっぱい詰まっていて、忘れていた扉、知らない扉を一つひとつ開けながら今も私なりの旅を続けているのだと思います(あちらの世界に行くまで?)
ありがとうございます。
「本館」の開始は2000年12月ですから、全部を読むのは大変だと思います。
これからもよろしくおつきあいください。