筆者は特撮オタクでもないし、「ゴジラ」映画はほとんど見ていない。したがって、この展覧会について詳しく評する資格は有していないのだが、とりあえず担当学芸員(中村さんと久米さんだろうと思う)の熱意と本気度は、強く伝わってきた。資料類が膨大で、少しはしょって見ても2時間近くはかかる充実ぶりだった。
担当学芸員の熱意というのは、道立近代美術館の場合は必ずしも自明のことではない。むしろ、企画した意図がよくわからない展覧会も、正直言って多い。今回のゴジラ展は、東宝をはじめとする関係者から借り受けた資料類の量、かき集めた写真やフィギュア、着ぐるみが、ハンパではない。パネルに記された解説の充実ぶりも、これまでの研究の蓄積を感じさせた。
見る人によっては、あまりにマニアックだとか、細部に詳しすぎると感じる人もあるかもしれない。
しかし、これまできちんと取り上げられてこなかったジャンルを、一般のアートのフィールドに移入するためには
「わたしたち、サブカルにも理解ありまーす」
というポーズでパネルを展示してお茶を濁す的な姿勢ではなく、調査を徹底して、今後の研究のベース・出発点になる展覧会でなければならないだろう。
その意味でも大きな意義のある展覧会だったと思う(ほんとうに今後の特撮ビジュアル・デザイン研究の礎石たりえる展覧会になったのかどうかは、詳しい人に聞かないとわからないが)。
今年は「シン・ゴジラ」が大ヒットしているが、この映画にまつわる展示は少ない。おそらくフルCGだからという理由もあるだろう。
数が多いのは「ゴジラ VS メカゴジラ」「ゴジラ × モスラ × メカゴジラ 東京SOS」の絵コンテやデザイン、模型など。映画を見ていない人でも、その設定の細かさ、数々の工夫は、関心をもって見ることができると思う。空にはモスラがつるされ、変化に富んだ会場構成が、見る人を飽きさせない。
もうひとつ、特徴を挙げれば、着ぐるみや模型、コンテ絵などの作者をきちんと紹介していること。仔細に見ると、年代によってゴジラの表情や造形にも細かな違いがあることがわかり、それらには、映画の世界観(設定)や、作者の個性が反映している。
紹介されている名前は、特撮マニアや映画ファンには知られているかもしれないが、美術史では無名の人たちである。かつて、美術館で略歴が紹介されるような固有名詞は、梅原龍三郎とか岸田劉生とかであっただろう。ここに並ぶ名前は、成田亨や小松崎茂ですらない。大げさに言えば私たちは、美術史が少しずつ書き換えられる瞬間に立ち会っているのだ。
以下、箇条書きに。
・「ゴジラ × モスラ × メカゴジラ 東京SOS」は2003年の映画なのに、セットの大きさの単位が尺貫法だったのは、軽く衝撃を受けた。
・同作の絵コンテには「大映 誰それ」と書かれている。スタッフが、その前にガメラの撮影に携わり、それをそのまま流用してきたのだろうが、それっていいのかよ(笑)。
・この時期まで、着ぐるみ、精密なミニチュアという、1950年代、初代「ゴジラ」以来の特撮の伝統を守り抜いていたことは特筆に値する。
・「撮影不可」「撮影OK」などの文字が極太明朝で、明らかに庵野秀明(「シン・ゴジラ」監督)を意識しているのが可笑しい。
・最後のコーナーで酒井ゆうじの造形物や生頼範義のポスター原画を大量に並べたのは、オタク大喜びではないだろうか。
というわけで、最後には、札幌を襲ったゴジラといっしょに記念撮影できるコーナーもあり、ゴジラにとくべつ詳しくない人でも楽しめると思いました。
2016年9月9日(金)~10月23日(日)午前9時30分~午後5時(入場は30分前まで)
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
・地下鉄東西線「西18丁目駅」から約390メートル、徒歩5分
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」から約180メートル、徒歩2~3分。
=札幌駅前ターミナル、時計台前から、手稲・小樽方面に向かうすべてのバス(都市間高速バス「おたる号」「いわない号」などを含む)が止まります。ただし北大経由は通りません
・市電「西15丁目」から約750メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(桑園駅前-円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約450メートル、徒歩6分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(札幌駅前―長生園前)「58 北5条線」(札幌駅前―琴似営業所前)の「北5条西17丁目」か「開発建設部前」降車、約550メートル、徒歩7分
=札幌駅前の乗り場は、旧西武百貨店の南側
※専用の駐車場はありません。「ビッグシャイン88北1条駐車場(北1西15)」の割引あり
関連記事へのリンク
■ウルトラマン アート! (2010)
担当学芸員の熱意というのは、道立近代美術館の場合は必ずしも自明のことではない。むしろ、企画した意図がよくわからない展覧会も、正直言って多い。今回のゴジラ展は、東宝をはじめとする関係者から借り受けた資料類の量、かき集めた写真やフィギュア、着ぐるみが、ハンパではない。パネルに記された解説の充実ぶりも、これまでの研究の蓄積を感じさせた。
見る人によっては、あまりにマニアックだとか、細部に詳しすぎると感じる人もあるかもしれない。
しかし、これまできちんと取り上げられてこなかったジャンルを、一般のアートのフィールドに移入するためには
「わたしたち、サブカルにも理解ありまーす」
というポーズでパネルを展示してお茶を濁す的な姿勢ではなく、調査を徹底して、今後の研究のベース・出発点になる展覧会でなければならないだろう。
その意味でも大きな意義のある展覧会だったと思う(ほんとうに今後の特撮ビジュアル・デザイン研究の礎石たりえる展覧会になったのかどうかは、詳しい人に聞かないとわからないが)。
今年は「シン・ゴジラ」が大ヒットしているが、この映画にまつわる展示は少ない。おそらくフルCGだからという理由もあるだろう。
数が多いのは「ゴジラ VS メカゴジラ」「ゴジラ × モスラ × メカゴジラ 東京SOS」の絵コンテやデザイン、模型など。映画を見ていない人でも、その設定の細かさ、数々の工夫は、関心をもって見ることができると思う。空にはモスラがつるされ、変化に富んだ会場構成が、見る人を飽きさせない。
もうひとつ、特徴を挙げれば、着ぐるみや模型、コンテ絵などの作者をきちんと紹介していること。仔細に見ると、年代によってゴジラの表情や造形にも細かな違いがあることがわかり、それらには、映画の世界観(設定)や、作者の個性が反映している。
紹介されている名前は、特撮マニアや映画ファンには知られているかもしれないが、美術史では無名の人たちである。かつて、美術館で略歴が紹介されるような固有名詞は、梅原龍三郎とか岸田劉生とかであっただろう。ここに並ぶ名前は、成田亨や小松崎茂ですらない。大げさに言えば私たちは、美術史が少しずつ書き換えられる瞬間に立ち会っているのだ。
以下、箇条書きに。
・「ゴジラ × モスラ × メカゴジラ 東京SOS」は2003年の映画なのに、セットの大きさの単位が尺貫法だったのは、軽く衝撃を受けた。
・同作の絵コンテには「大映 誰それ」と書かれている。スタッフが、その前にガメラの撮影に携わり、それをそのまま流用してきたのだろうが、それっていいのかよ(笑)。
・この時期まで、着ぐるみ、精密なミニチュアという、1950年代、初代「ゴジラ」以来の特撮の伝統を守り抜いていたことは特筆に値する。
・「撮影不可」「撮影OK」などの文字が極太明朝で、明らかに庵野秀明(「シン・ゴジラ」監督)を意識しているのが可笑しい。
・最後のコーナーで酒井ゆうじの造形物や生頼範義のポスター原画を大量に並べたのは、オタク大喜びではないだろうか。
というわけで、最後には、札幌を襲ったゴジラといっしょに記念撮影できるコーナーもあり、ゴジラにとくべつ詳しくない人でも楽しめると思いました。
2016年9月9日(金)~10月23日(日)午前9時30分~午後5時(入場は30分前まで)
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
・地下鉄東西線「西18丁目駅」から約390メートル、徒歩5分
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」から約180メートル、徒歩2~3分。
=札幌駅前ターミナル、時計台前から、手稲・小樽方面に向かうすべてのバス(都市間高速バス「おたる号」「いわない号」などを含む)が止まります。ただし北大経由は通りません
・市電「西15丁目」から約750メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(桑園駅前-円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約450メートル、徒歩6分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(札幌駅前―長生園前)「58 北5条線」(札幌駅前―琴似営業所前)の「北5条西17丁目」か「開発建設部前」降車、約550メートル、徒歩7分
=札幌駅前の乗り場は、旧西武百貨店の南側
※専用の駐車場はありません。「ビッグシャイン88北1条駐車場(北1西15)」の割引あり
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■ウルトラマン アート! (2010)
実際に観て、凄い!一言です。ゴジラにかかわった方々の熱意が伝わってきました。
愛すべきゴジラ、これからも精密に手を加えた「特撮の伝統」を引き継いでほしいですね。個人的には、愛嬌のある初期のゴジラが好きです。
最後のコーナーで、ゴジラに背を向けて照れくさそうに、カメラを手にぶら下げている自分が・・。
撮りますかを断って、ゴジラを撮ったのに、どうして、私のカメラの中に、カメラを持った私が入っているのでしょう。記憶が曖昧です。
ただ、ゴジラが切り開き、ウルトラマンが続いた特撮の伝統は、残念ながら途絶えつつあります。「シン・ゴジラ」はフルCGです。
もちろん庵野秀明さんはそれを知っているからこそ「巨神兵 東京に現る」を作ったのでしょうが…。
最後のコーナー、シチュエーションがよくわかりませんが(笑)、こちらには、ゴジラに驚く自分がうつっています。
https://twitter.com/akira_yanai/status/789317243565768705