建築の展覧会、というのは珍しいのだろうか。
筆者の個人的な印象では、札幌では珍しいというほどではないだろう。
建築の展覧会は、実物を持ってくるわけにはいかない。
展覧会というスタイルを取らず、2時間くらいをかけて街中で実際の建築を鑑賞してまわるツアーをやればおもしろいと思うのだが、こちらはそんなに頻繁に行われているわけではないと思う。
それはさておき、実際の建築を搬入するのは無理なので、展示方法はほとんど2種類となる。
ひとつは、模型の展示を軸とするもの。
もうひとつは、パネルの展示である。
前者は、すでに実現して建っているものや、実現可能性が高い場合によく採用される。
今回は、北海道を代表する建築集団のひとつであるアトリエ・ブンクは、あの狭い500m美術館のパネル内に模型をうまく押しこんでいた。
ただ、立体模型というのは、どの角度からも見ることができるからすぐれているのであって、この会場では、その効果があまり発揮できないのは、致し方ないとはいえ、残念さがのこる。
後者のパネルは、その反対で、実現できるメドがたっていない建築の場合に採用されることが多い。
だから、学生の卒展ではパネル展示がほとんどになる。
道都大は毎年、道内の古建築の巨大な模型を発表していたが、それを別にすれば、道都大、札幌市立大、北海道デザイナー専門学校、北海道東海大など、学生の卒業発表はほとんどがパネルである。
今回、パネル形式をとっていたのは、例えば、隈研吾設計事務所の発表だった。
これは、実際に十勝地方で続けられているプロジェクトの報告であり、北海道の風土を考慮しながら次代の建築を考えていくもの。そのこと自体は評価したいが、「札幌」というテーマから離れている点が、唯一気になった。
筆者は「建築されない建築」を発表することが無意味だとは思わない。
建築家の訓練にもなるし、いまは夢でも、将来的に技術水準が上がるなど環境が変化して実現可能性が出てこないと限らないからだ。
ただ、建築家自身には、自分のプランが、果たして実現可能性があるのかないのか、冷静に認識しておいてほしいとは思う。
その認識が足りないから、とうてい実現しそうにない建築がコンペを通過してしまい、問題になっているのが、国立競技場の件ではないのだろうか。
今回の展示では、実現したら困るもの(=こんなものが大通公園に実際に建ったら景観ぶちこわしやねん、というビル)や、実現のことを考えていなさそうなもの(=きれいだけどさー、雪が降ったらどうすんのこれ?)のプランを書いたパネルがけっこう多かった。
通勤客が足早に通り過ぎる通路で、文字の小さなパネルを読み続けるのは疲れたし、まさにいま大雪で都心の交通機能が大きな打撃をこうむっているさなかで、そんなことにはまったく頓着していないプランの数々に触れるのは、さらに疲れることだった。
そのくせ、コンセプトの文章は、とても麗々しいのだ。
筆者は、能書きはどうでもいいので、利用しやすい建築、住みやすい家、周囲の景観と調和する施設であってほしいと思う。
大通公園の東側に建つタワーマンションとか、道警本部を見ていると、建築家の中には、周囲との調和について全く意を用いない人がいることがよくわかる。
けっきょく、見ておもしろかったのは、先ほど挙げた2類例、つまり模型でもプランパネルでもないものであった。
冒頭は、森傑研究室、北海道大学・建築計画学研究室の展示。
札幌の街角で撮った写真を題材に、天窓や減築、広場など、さまざまなテーマについて考えさせる短い文章がついている。まさに、的を射た問題提起の数々だと思う。
単なる建築ではなく、まちづくり・都市計画・街路形成などについて、いろんな視点から見ているのだ。
もうひとつは、「時層―今までを読んで、これからを考える」と題した大きな展示。
古い地図や写真、広告などを大量にコラージュしたもので、札幌の歴史について思いをはせることができるものだった。
こういう地に足を付けた発想を持った建築家が増えないと、またぞろ、周囲から浮き上がったビルが建つだろうと、筆者は危惧しているのである。
2014年10月11日(土)~15年1月23日(金)午前7時30分~午後10時(最終日~午後5時)
札幌大通地下ギャラリー500m美術館
【告知】アトリエブンク展 (2013)