茶廊法邑で、法邑文化振興財団の企画による絵画3人展が開かれています。
いずれも道教育大で山本勇一さんに絵画を学び、道展の油彩部の会員として活動中です。
(11月7日、一部を削除しました。担当教官を勘違いしてました。すみません)
木滑美恵さんは新制作協会にも出品しており、協友です。旭川を拠点にしています。
近年は、演劇の舞台を思わせるようなダイナミックな明暗や線による群像の描写を手がけています。
右側の「O氏に捧げる詩篇140」でも、手前には床の上に横たわる3人が描かれ、画面奥には舞台セットのように立てられた木戸や、床に座り込んでいる人々などが描かれています。
「詩篇」とは、旧約聖書のなかの一書です。キリスト教信仰は木滑さんの絵画のたいせつなテーマになっています。
詩篇第140章は、次のような書き出しで、神への祈りをうたっています(引用は岩波文庫の文語訳聖書より)。
次のような部分を読むと、イスラエル王ダビデの強い思いがつたわってきます。
描かれているのが具体的に、どういう場面なのかはわかりません。ただ、暗い画面の中に、人間の感情や祈りが折りたたまれるように表現されているのだと思います。
「現代の聖画を描きたい」と、2014年の個展のときに木滑さんが話しておられたことを思い出します。
不思議なのは奥に掛けられた「セブン」。
題のとおり、白い寛衣を身にまとってうつむきがちな姿勢で踊っている7人がモチーフなのですが、ちょうど足の高さが、白いクロスを掛けられた食卓の上あたりになっています。卓上では瓶が割れていますが、皿やパンはそのまま載っていて、この7人が空中に浮かんでいるのか、テーブルの上に乗っかっているのか、それともたまたま二つのモティーフを同時に描きいれているのか、いかようにもとれるように描かれているのです。
その間に掛けられている作品は「祈り…Mのために」。
太子さんは江別の高校で教壇に立ちながら制作しているそうですが、上記の2人と異なり、道展以外での発表はそれほど多くありません。
リアルに描かれた人物像が特徴。今回は、法邑の壁面一方をまるまる使って「扉」という作品を出品しています。
大きな支持体は三つ。左側には若い男性が、右側には女性が、それぞれ立像で描かれ、中央には本物のノブがついたドアが配置されています。
その間には、引っかき傷のような線条がついた不定形の小さな、黒っぽい木片がいくつも、ランダムに並んでいます。
帽子を右手につかんだ男性も、ジーンズ姿の女性も、背景は夕闇のように濃い赤を主体に処理されており、ドアを覆う緑とは補色の関係にあります。
2人とも、この画家の描写力の高さをうかがわせるしっかりとした存在感をたたえていますが、この2人がどういう人物で、どのような関係にあるのかは、明示されていません。
村上陽一さんは帯広在住。二紀展にも出品し、準会員です。
村上さんは、古画のような味わいをもった絵が特徴です。
手前の3連画は「鳩と羊」。
鳩は精霊のメタファーであり、羊もさまよえる人間の暗喩としてよく聖書に登場する動物です。
木滑さんほどではないにしても、どこかキリスト教的な背景を感じさせる作品です。
左側の鳩は、おそらく中央の女の子が手にしている鳥かごから出て行ったのでしょう。かごに白い羽が残されています。
このほか「塔・羽」という、やはり三つの部分からなる作品が2点。
左右の横長のカンバスに白い羽が描かれ、中央にはレリーフ状の小さな塔屋がおかれています。
また「水引の塔」は、計六つの支持体からなる作品。
上部には円形のカンバスに白い鳩が描かれたものが三つ並び、下部には、他の作品でも用いられている、上が三角形になった変形カンバスに、古い建物が描かれている絵が並んでいます。沈んだ青い色の上に、イタリアルネサンス期を思わせる塔屋や、舟が乗っかったような、不思議な建造物で、だまし絵のように浮かび上がって見えてきます。
先ほど「人物の存在感」ということを書きました。
近年はハイパーリアルな人物画が一部で流行しているようですが、ふしぎなことに、いくら写真と見まがうような高い写実力のある絵でも、なぜかモティーフに実在感・実在感のない絵というのがあるのです。「似ている」ということを取り除いてしまえばあとにはなにも残らないような絵です。
今回の3人も高い描写力で人物などを描いていますが、単に「写真みたいに似ている」という表面的なものを超えて、描かれている対象に迫っているといえます。表層的な写生をすこし犠牲にしてでも存在感ある人間を描こうという気持ちがこちらに伝わってくるのです。
写実的な絵画とひとくちにいっても、いろいろなアプローチがあると思いますが、今回の3人の絵にも、三者三様の気持ちが感じられ、見ごたえのある3人展になっています。
2017年10月25日(水)~11月5日(日)午前9時~午後6時(最終日~午後4時)、月火休み
茶廊法邑(札幌市東区本町1の1)
関連記事へのリンク
■木滑美恵自選展 (2014)
■ローギュラート展(2006年、画像なし)
■ローギュラート展(2003)
■木滑美恵展 (2002、画像なし)
■斉藤順子・木滑美恵・長岐和彦・吉中博道・盛本学史5人展 (2001、画像なし)
村上陽一展 (2004、画像なし)
茶廊法邑への道(環状通東駅から)
・地下鉄東豊線の環状通東駅から約790メートル、徒歩9分
・札幌駅北口か環状通東駅から、中央バス「東64 伏古北口線」「東65 伏古・北13条線」(いずれも東営業所行き)に乗り、「本町1条2丁目」降車。約180メートル、徒歩3分(いずれもおおむね1時間おき)
・中央バス札幌ターミナルから中央バス「26 丘珠空港線」に乗り、「北13条東15丁目」降車。約460メートル、徒歩6分。本数は少なめ。なおこの路線は、環状通東、元町、新道東、栄町の東豊線各駅とも連絡
・地下鉄南北線「北18条駅」から中央バス「東62 本町線」に乗り「本町2条1丁目」から約450メートル、徒歩6分
いずれも道教育大で
(11月7日、一部を削除しました。担当教官を勘違いしてました。すみません)
木滑美恵さんは新制作協会にも出品しており、協友です。旭川を拠点にしています。
近年は、演劇の舞台を思わせるようなダイナミックな明暗や線による群像の描写を手がけています。
右側の「O氏に捧げる詩篇140」でも、手前には床の上に横たわる3人が描かれ、画面奥には舞台セットのように立てられた木戸や、床に座り込んでいる人々などが描かれています。
「詩篇」とは、旧約聖書のなかの一書です。キリスト教信仰は木滑さんの絵画のたいせつなテーマになっています。
詩篇第140章は、次のような書き出しで、神への祈りをうたっています(引用は岩波文庫の文語訳聖書より)。
ヱホバよねがはくは悪人よりわれを助けいだし我をまもりて強暴人よりのがれしめたまへ
次のような部分を読むと、イスラエル王ダビデの強い思いがつたわってきます。
われヱホバにいへらく汝はわが神なり、ヱホバよねがはくはわが祈のこゑをききたまへ
描かれているのが具体的に、どういう場面なのかはわかりません。ただ、暗い画面の中に、人間の感情や祈りが折りたたまれるように表現されているのだと思います。
「現代の聖画を描きたい」と、2014年の個展のときに木滑さんが話しておられたことを思い出します。
不思議なのは奥に掛けられた「セブン」。
題のとおり、白い寛衣を身にまとってうつむきがちな姿勢で踊っている7人がモチーフなのですが、ちょうど足の高さが、白いクロスを掛けられた食卓の上あたりになっています。卓上では瓶が割れていますが、皿やパンはそのまま載っていて、この7人が空中に浮かんでいるのか、テーブルの上に乗っかっているのか、それともたまたま二つのモティーフを同時に描きいれているのか、いかようにもとれるように描かれているのです。
その間に掛けられている作品は「祈り…Mのために」。
太子さんは江別の高校で教壇に立ちながら制作しているそうですが、上記の2人と異なり、道展以外での発表はそれほど多くありません。
リアルに描かれた人物像が特徴。今回は、法邑の壁面一方をまるまる使って「扉」という作品を出品しています。
大きな支持体は三つ。左側には若い男性が、右側には女性が、それぞれ立像で描かれ、中央には本物のノブがついたドアが配置されています。
その間には、引っかき傷のような線条がついた不定形の小さな、黒っぽい木片がいくつも、ランダムに並んでいます。
帽子を右手につかんだ男性も、ジーンズ姿の女性も、背景は夕闇のように濃い赤を主体に処理されており、ドアを覆う緑とは補色の関係にあります。
2人とも、この画家の描写力の高さをうかがわせるしっかりとした存在感をたたえていますが、この2人がどういう人物で、どのような関係にあるのかは、明示されていません。
村上陽一さんは帯広在住。二紀展にも出品し、準会員です。
村上さんは、古画のような味わいをもった絵が特徴です。
手前の3連画は「鳩と羊」。
鳩は精霊のメタファーであり、羊もさまよえる人間の暗喩としてよく聖書に登場する動物です。
木滑さんほどではないにしても、どこかキリスト教的な背景を感じさせる作品です。
左側の鳩は、おそらく中央の女の子が手にしている鳥かごから出て行ったのでしょう。かごに白い羽が残されています。
このほか「塔・羽」という、やはり三つの部分からなる作品が2点。
左右の横長のカンバスに白い羽が描かれ、中央にはレリーフ状の小さな塔屋がおかれています。
また「水引の塔」は、計六つの支持体からなる作品。
上部には円形のカンバスに白い鳩が描かれたものが三つ並び、下部には、他の作品でも用いられている、上が三角形になった変形カンバスに、古い建物が描かれている絵が並んでいます。沈んだ青い色の上に、イタリアルネサンス期を思わせる塔屋や、舟が乗っかったような、不思議な建造物で、だまし絵のように浮かび上がって見えてきます。
先ほど「人物の存在感」ということを書きました。
近年はハイパーリアルな人物画が一部で流行しているようですが、ふしぎなことに、いくら写真と見まがうような高い写実力のある絵でも、なぜかモティーフに実在感・実在感のない絵というのがあるのです。「似ている」ということを取り除いてしまえばあとにはなにも残らないような絵です。
今回の3人も高い描写力で人物などを描いていますが、単に「写真みたいに似ている」という表面的なものを超えて、描かれている対象に迫っているといえます。表層的な写生をすこし犠牲にしてでも存在感ある人間を描こうという気持ちがこちらに伝わってくるのです。
写実的な絵画とひとくちにいっても、いろいろなアプローチがあると思いますが、今回の3人の絵にも、三者三様の気持ちが感じられ、見ごたえのある3人展になっています。
2017年10月25日(水)~11月5日(日)午前9時~午後6時(最終日~午後4時)、月火休み
茶廊法邑(札幌市東区本町1の1)
関連記事へのリンク
■木滑美恵自選展 (2014)
■ローギュラート展(2006年、画像なし)
■ローギュラート展(2003)
■木滑美恵展 (2002、画像なし)
■斉藤順子・木滑美恵・長岐和彦・吉中博道・盛本学史5人展 (2001、画像なし)
村上陽一展 (2004、画像なし)
茶廊法邑への道(環状通東駅から)
・地下鉄東豊線の環状通東駅から約790メートル、徒歩9分
・札幌駅北口か環状通東駅から、中央バス「東64 伏古北口線」「東65 伏古・北13条線」(いずれも東営業所行き)に乗り、「本町1条2丁目」降車。約180メートル、徒歩3分(いずれもおおむね1時間おき)
・中央バス札幌ターミナルから中央バス「26 丘珠空港線」に乗り、「北13条東15丁目」降車。約460メートル、徒歩6分。本数は少なめ。なおこの路線は、環状通東、元町、新道東、栄町の東豊線各駅とも連絡
・地下鉄南北線「北18条駅」から中央バス「東62 本町線」に乗り「本町2条1丁目」から約450メートル、徒歩6分