「500m美術館」スタート10周年ではじめて、キュレーターにも焦点を当てた展覧会。
公式サイトには、次のようにあります。
進藤冬華[飯岡陸]、朴炫貞[同]、是恒さくら[四方幸子]、マリット・シリン・カロラスドッター[柴田尚]、モーガン・クエインタンス[同]、ピョートル・ブヤク[長谷川新]、は、それぞれキュレーターと協働して作品を発表します([]内が担当キュレーター)。4人のキュレーターが設定したテーマは独立していますが、相互に共通する問題意識が反響しています。
この4人のうち柴田さんをのぞく3人は、札幌にゆかりがあるとはいえ、道外が拠点であり、このことをみても、北海道や札幌ではキュレーターという存在がまだまだ縁遠いものであることがうかがえます。
これはおそらく、また悪口になってしまいますが、北海道の美術館で、キュレーターの存在感というか企画力を感じさせる展覧会や企画、催しがまだまだ少ないという背景があるでしょう。
とはいえ、1990年代以降の現代アートにおいてキュレーターが果たす役割はますます大きくなってきています。
そのことを、あらためて札幌のアートファンに理解してもらう、ある種の啓蒙的な役割を持った展覧会なのだと感じました。
キュレーターはいまや、作家や作品という素材を組み合わせて展覧会という料理を提供するシェフというよりも、作家と現実の社会を結びコーディネートする「協働者」という面が強くなっているということを、あらためて実感できたようです。
いまに始まった話ではないのですが、500m美術館の形状自体が、平面(絵画や写真)の展示に適していて、インスタレーションや映像を多用する現代アートをやろうとすると大変だよなあ~と、あらためて感じました。
そんな会場の特徴を踏まえてキュレーティングをしていたのが長谷川新さんだったと思います。
写真作品は、子どもが袋をかぶってマネしたら危ないかも、と思いつつも(もちろん、会場には注意書きがありました)、コロナ禍でともすれば等閑に付されがちな肉体・身体の存在を、見る人に気づかせる意味合いがあったと思います。その点は、柴田さんのフィーチャーした舞踊家の写真も共通しているでしょう。
進藤さんと朴さんは「完成した作品」というよりは「作品に向けてのアイデア・考察集」的な雰囲気の強い展示だったようで、しかしそのことが逆に、ある意味で現代アート的です。
進藤さんの場合、現実と取り結ぶことと、それを作品というものに仕上げることの間に横たわる難しさを、率直にテキストに吐露していて、共感するところがありました。
朴さんの作品の舞台は、北大キャンパスの南西端の温室でした(筆者は見ていない)。
この北大キャンパスの離れ小島が誕生した歴史的経緯が触れられていませんでしたが、1970年代に、桑園新川(もともとの源流は植物園内)の直線化と、石山通の北側延伸に伴い、キャンパス本体から切り離された土地が生じたことにあります。
桑園新川は、途中でサクシュコトニ川を合わせ、琴似川・界川と合流して、新川となってまっすぐに石狩湾を目指しますが、もともとは自然河川です。
思いつき発言ですが、この水系は、谷口顕一郎さんの「凹みスタディ―琴似川 北12条西20丁目」採集地ともつながりがあるので、共作したらおもしろいかもしれません。
是恒さんは苫小牧で開催中の「NITTAN ART FILE」にも出展中で、北海道移住後も大車輪の活躍です。
ただ、ここに並んでいるリトルマガジンは、手にとってみることができないので、もし閲覧できる場所があるなら、その案内もあったらなお良かったのにと思いました。
(追記。筆者は石巻でも網走でも是恒さんの作品を見ているので、それほどつけ加えることはなかったのですが、考えてみれば札幌での本格的な発表は初めてなのかもしれないですね。幅広い渉猟=書物も旅も=という特徴がよく出た、めりはりのある展示だと思いました)
2021年12月11日(土)〜2022年2月2日(水)午前7時30分~午後10時
札幌大通地下ギャラリー500m美術館 (地下鉄大通駅とバスセンター前駅間の地下コンコース内)