来年1月末で、1993年以来の歴史に幕を閉じる札幌市写真ライブラリー。
簡単に終わらせてはなるものかと?!、企画展「さっぽろフォトステージ」が4週にわたって繰り広げられた。
前半は常設展会場のみで、8人が出品したが、後半のPart2は、公募による36人が登場。「常設」と「貸し」の両スペースをフルに使っており、間にある扉をあけている(これは、なんでもオープン記念の土門拳写真展以来のことであるらしい。すくなくても、現在同ライブラリーに勤務する人は誰もこの扉が開いたのを見たことがないという)。
結論からいうと、これほど「熱い」写真展は、近年見たことがない。
ちょっと以前のカメラ雑誌の読者投稿欄に載っていた写真でも、単なるネイチャーフォトでもない、「表現としての写真」としか言いようのない、多種多様な作品が並んでいる。
とても全員の紹介はできないので、申し訳ないですが、一部の出品者だけ。
ふだん常設展を開いている細長い会場の方は、モノクロばかり9人が作品を並べている。
個人的にツボだったのは、上原稔さん「ここじゃないどこか いまじゃないいつか」(24枚)。
古いバスのチケット売り場、細い道路の踏切、農協のキャッシュコーナーが入っている円形の建物(福島県?)、稲刈りするおじさん、小舟がもやっているよどんだ水路など、どことなく昭和ムードの風景が絶妙。「パチンコ思ひ出」なんて、よく見つけてきたなーと思う。
遠野市(岩手県)の婚礼家具店のさびかけた看板は、森山大道へのオマージュだろうか。
ウリュウユウキさんは、part1に続いての出品。
「I still stay here」は、鍵のかかった金網扉や、うっすらと雪の積もった舗道など、初冬という季節を反映してか、やや内向きの印象を受ける。
地下鉄の線路が交叉しているプリントがあったが、これは東京の由。
谷口能隆さん「The Way-Paris & Prague」は、6枚とも正方形のプリント。
石畳の夜道を這う路面電車のレールの上、画面奥から自動車が走ってくる1枚が好き。
パネルには「自分はストレートフォトを通したシュールな世界を模索していく」とあり、その趣旨にも合った1枚かと。
野呂田晋さん「官舎」は、札幌市西区にある公務員住宅を撮った15枚。単に、団地の外観だけでなく、ポプラや蜘蛛なども撮って変化を付けているのは良いのだけれど、パネルに「築年数が古い」とあったのに、さりげなくショックを受けた。あの官舎が建つ前、一帯が農業試験場だったことをおぼえている身としては…。
カラーの部屋にもモノクロ作品はある。
若手こんのあきひとさんは、最近、モエレ沼公園でのイベント「カタログ」など、怒濤の勢いで発表を続けている。「幻影風景」と題した5点の写真は、いずれもパノラマサイズ。競馬場や、鳥の飛ぶ空など、まさに幻想的で、白い布を絡ませるなど展示方法もユニーク。
入り口附近では、酒井広司さんが「北海道風景」の題でカラー5点を展示。雪のある一戸建て団地や、夕方の浜辺で花火に興じる子どもなど、何気ない光景なのに、なぜか懐かしさを感じる。
非常に独特な花の写真を撮る岡本和行さんは、大きなクラフト紙にプリントアウトしたのがおもしろい。「Bourgogne」「Rose」「Cella」の3点。
サワダケンタローさんは、Radio & Records以来、久しぶり。パノラマサイズを3点組にならべ、計27点。カーテンのすきま、道立近代美術館の階段、トタンの塀など、日常的なスナップの中に絶妙の「間合い」のようなものを感じさせる。
高井稜さんは、より心象風景の度合いを高めている。
カラーで注意深く撮影された花などの静物は、長谷川潔の銅版画を思わせる静謐さに満ちている。
19点もあり、これまでの集大成的な展示だ。
Part1にも出品していたKensyoさんも心象風景的。一貫して女性ヌードを題材にしているが、これまでも何度か書いているように、いわゆる「ヌード写真」の枠組みにはおさまらない写真だと思う。500m美術館のときに引き続き、ヌード以外のショットを間に挟むことにより、それが明確になったといえるのではないか。
小牧寿里さんは「Drift vol.1 暗夜行路より」という2作。
「Water Front #3(traffic accident)」は青っぽく、「N43°13″E141°19″ #1」は赤っぽい。プリントの背後に蛍光灯を取り付けており、写真というよりも、光をテーマにした現代アート的な作品だ。
展覧会の仕掛け人である浅野久男さん「TIDE LINE」は、函館と奥尻で、ピンホールで撮影した作。ピンホールというと、おもちゃ的なイメージがあったが、かなりシャープな映像になっており、それでいて幻想性は失われていない。
風景の幻想性といえば、畠山雄豪さん「間-Interval」も、飛行機内から撮った雲海や海など、正方形よりわずかに縦長の画面に、なかば抽象的な景観をおさめている。
若い女性の写真グループ「Hakoniwa」からは、なんと5人が出品。
フォトレタッチソフトを駆使して現実にはない風景を作り出すクスミエリカさん「Sanctuary」、ふたつの異なるプリントをひとつの額に収めることで異化効果を出すtsugu August11さん、女性のセミヌードを何枚ものプリントに出力した佐藤さゆりさん、芸能人の横顔をとらえた安藤ひろみさん、トイカメラっぽい味わいがおもしろい@yumiさんと、作風も多彩だ。
古湖桂さんのインクジェットプリント4枚「海沿<榊町>」「海沿<石狩>」「海沿<幌戸>」「海沿<イシカリ>」は、やや青みがかった発色が目を引く。
北川陽稔さん「Meditation on Mars」も、発色が強調されて、一般的なネイチャーとはやや異なる味わいだ。メタ佐藤さんの、マンホールに魚の干物が載った1枚もふしぎ。
大滝恭昌さんは鉄道写真に分類されるのだろうけど、寝台特急カシオペアを撮った「夢<あこがれ>」など、鉄道に興味のない人もじゅうぶん美しいと思うプリントばかりだ。
むちゃくちゃに長くなったのでこのへんでおしまい。ふれられなかった人、ごめんなさい。
札幌の写真の多様性をあらためて確認した、興味深い展覧会だった。
2009年12月2日(水)-13日(日)10:00-7:00
札幌市写真ライブラリー(札幌市中央区北3東4 サッポロファクトリー・レンガ館3階)
□http://photo-stage.seesaa.net/
関係あるエントリ
■さっぽろフォトステージ part1
このたびはご覧頂きありがとうございました。
また、感想を嬉しく拝見しました。
ヤナイさんのお名前はあちこちでお見かけしておりますが、ご挨拶は初めてだと思います。
今回の写真は特定の場所をセレクトしたものではなく、自分が好きな「空間」だけを選んでみました。仰る通り現JAの建物は福島県です。遠野は好きな場所で年に何度か訪れます。
(森山大道氏が遠野を撮られていたのを知ったのが、数年前でちょっとびっくりでした)
また、どうぞ宜しくお願い致します。
なかなか興味深い展覧会でした。
それもあるのですが、2室の間に扉があったのは驚きました。
今、勤めている人も見たことがないのですか。
亀レスすいません。
今回の作品、とてもよかったです。
遠野に年何度か、というのはすごいですね。
わたしも数年前に1度訪れました。とても魅力的なところで、またゆっくり行きたいです。
でも、いかにも「民話の郷」じゃないところにレンズを向けるあたりが、ariariさんと大道さんに共通しているのかも?
>SHさん
あの扉はわたしも初めて見ました。ほとんどだれも見たことがないようです。
あのあたり一帯は、「農試公園」の名前からもわかるように、官舎が建つ以前は農業試験場、そして工場がたくさんあったと、人づてに聞いています。今回「築年数が古い」と書いたのは、他の官舎と比較して・・・ということでした。
真駒内や大麻にはもう新たな入居はさせていない官舎もあり、一部取り壊しも始まるようですが、そこに次ぐ築年数の古さです。実はそれでも、外観だけは改修しているので見た目にはさほどでもないですが、私の生まれた1970年代の建設だと記憶しています。
官舎は自分の生活に密接に結びついているので、住み続ける限りは撮り続けると思います。また数年後どこかで、第二弾を発表したいと思います(もういいって言われても(笑・・・)
もちろん野呂田さんを批判しているわけではなくて、すでに自分が老人だということを言ってるのです。
それにしても、なんで鉄筋コンクリートの建物の耐用年数がこんなに短いのだろうって思いますよね。
えらそうですいませんが、テーマ性をもって撮影をつづけていくことは、いいことだと思うので、今後もまた機会があったら拝見させてください。