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■阿部典英展「ネェダンナサン あるいは 月(げつ)・影(えい)・漂(ひょう)」2014年7月3日~31日、札幌

2014年07月29日 21時25分00秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 阿部典英 てんえいさんは1939年(昭和14年)生まれ。ことし75歳になることがとても信じられないほど精力的に活動している。
 ことしの夏も、この美術館での個展企画のほか、札幌芸術の森野外美術館などを会場とした野外展や、ギャラリーレタラでのSapporo Conception 札幌現代アート交流展2014に参加。さらに、8月9、10日に札幌市教育文化会館で開かれる第43回札幌文化団体協議会フェスティバルでも展示をするという。
 仕事から帰ると毎日「疲れた~」を連発している筆者としては、活力の源がどのあたりにあるか、ぜひお聞きしてみたいものだと思う。

  それはさておき。
 これほどの活躍をしているテンエイさんであれば、道内の美術愛好者には「阿部典英の個展だから」の一言で済むかもしれない。
 しかし、いまは札幌国際芸術祭の期間中である。
 だれが見に来るか分からない。

 だとしたら、豊穣な「阿部典英の世界」に、方向性をつけていくことは、キュレーティングをする側の責務ではないのかという気もする。

 あくまで筆者の私見なのだが、今回の個展の四つの部屋は、彼の作品世界の方向性にちょうど対応しているのではないか。

 冒頭に掲げた、UFOのような、あるいはクラゲのような立体が並ぶ部屋は、「工作少年」を自称する彼の、造形性が前面に出た一角である。
 造形性といって悪ければ、身体性、であろう。
 彼が疎開先の後志管内島牧の海岸で採った魚介類のフォルムが生きている、ユーモラスな形である。
 それらは、永遠に失われた(あるいは造形の中に永遠に生きている)ユートピアの表象とも、いえるのではないだろうか。

 二つめ。
 2枚目の画像にあるようなインスタレーションは、「性」「生」の根源に迫ろうとする作品群であると思われる。
 性といっても、記号的なエロティシズムにとどまるのではなく、あくまで「生きること」の根っこにあるものを、エネルギッシュに表現しているのではないか。


 三つめは、やや「社会派」的な作品。
 かつて典英さんは「ペンは剣より強し」と言ったことがある。
 今回は出ていないが、アフガニスタン空爆に題材を得た連作などもかつては制作していた。

 この方向性は、決して二つ目の「性」「生」とかけ離れたものではない。
 「性」「生」を全うできなくする戦争への怒り。平和への素朴な願い。
 そうした心性が、自然に作品に反映されているのだと思う。

 最後は「死」である。
 北方ロマン派、あるいは、森林や自然への志向、といってもいい。
 おそらくは、砂澤ビッキとの出会いや別れが、反映しているのだろう。
 黒鉛を塗りこめた、林立する木の柱が、永遠を刻んでいる。
 崇高で、荘厳とした世界である。


 阿部典英ワールドは、この四つの世界からなっているように、筆者には思われる。
 もちろん、すぱっと区切られたものではなく、境目のない、渾然一体としたものだが。
 そして、大幅に異なる作風の、四つの世界でありながら、なおかつどこから見ても、やっぱり阿部典英の世界として成立しているところが、おもしろいというか、すごい。
 ひとつのコンセプトを追い続けるのではない。広い領域をカバーする巨大な作家として、テーマも念頭に置きつつやはり造形性を捨象しない作家として、阿部典英の世界はなおも拡張している。わたしたちは、その拡張の現場をいま目撃しているのである。


2014年7月3日(木)~31日(木)午前10時30分~午後7時(入館は30分前まで)、火休み
札幌宮の森美術館(中央区宮の森2の11)

観覧料(企画展+コレクション展示): 一般800円、シニア(60歳以上)高大生600円、中学生以下無料




・地下鉄東西線「円山公園駅」からジェイアール北海道バス「円14 荒井山線 宮の森シャンツェ前行き」「円15 動物園線 円山西町2丁目行き」「同 円山西町神社前行き」、「西28丁目駅」からジェイアール北海道バス「西20」「西21」(いずれも「神宮前先回り)に乗り「宮の森1条10丁目」で降車、約370メートル、徒歩5分。

・地下鉄東西線「円山公園駅」1番出口から約1.38キロ、徒歩18分。「西28丁目駅」から約1.43キロ、徒歩18分


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