9年ほど前になるが、「輝く日の宮」を読んだときの、すばらしい小説に出会ったという感動を今でも忘れることは出来ない。小説としての構成、表現いずれをとっても超一流。こんなに瑞々しい小説を円熟の極致にあった丸谷氏が著したのは奇跡のようだった。このような小説の書き手はもう現れないのではないかと思う。
話は変わるが、ちょうど、三島由紀夫の「豊饒の海」全4巻を、40年ぶりに読み返したところである。現代では珍しい大長編小説だが、今になって感じるのは、この小説の主人公たちの狡猾さ、悪賢さだけで、饒舌な表現はいかにも三島らしいが、決して三島を代表する傑作とはいえないということだ。自決の日の校了したという、三島の遺作でもあって、社会史的には意味をもつのだろうが・・・
丸谷才一氏と三島由紀夫は同年生まれ、同じ東大卒(学部は違うが)という同時代の二人の、この2つの作品を比べると、その小説としての完成度は際立って違う。