NHK総合テレビで今日午後放送されたドキュメンタリー番組。米ソによる東西冷戦、その終結とユーゴ紛争、同時多発テロとその直後の米国のナショナリズムのうねりにまさに翻弄される天才チェスプレイヤーの姿が実に痛々しい。63歳という決して長いとは言えない生涯をひたすら疾走したフィッシャー。自分も幾度か訪れたことのあるアイスランド、ベオグラードや旧ユーゴスラビア諸国(そして日本)が彼の人生の主要な舞台となっていて懐かしさがこみ上げてきた。
思えば、NY市庁舎前での凱旋式典が彼の人生の絶頂だったのだろう。そして対ユーゴ制裁に基づく米国政府からの命令書に唾する天才フィッシャーの姿は第二の絶頂だったといえるかもしれない。
冷戦時代に敵対国ソ連に打ち勝って米国の名を挙げたということでは、フィッシャーは第一回チャイコフスキー国際コンクールで優勝したクライバーンとも重なるが、その後の人生はまさに対照的だ。これもチェスという勝負の世界の持つ破滅的な魔力によるのかもしれない。
キッシンジャーからの電話で立ち直るフィッシャーとその後の米国政府の冷淡な対応は、国際政治の非情を余すところなくあらわしている。米国に送還せず、アイスランドに出国させた日本がフィッシャーにはどのように映ったのだろうか。