癒されるオーケストラにて
中学の時、音楽の先生に「声楽家もんやね」と言わしめた歌唱力!それが五十年経ったいま、音楽とは無縁の日々を送っている。
そんなわたしに、唯一音楽に関した楽しみを与えてくれているのが、高校生の末娘。6歳から倣い続けているヴァイオリンで音楽家に進んだ。
彼女が毎日練習する楽器の旋律の響きを、ひと部屋隔てたところで楽しんでいる。近くで臨場感に浸りながら聴きたいが、薄眼が嫌がるから仕方がない。
ただ娘の演奏は、他の何よりも間違いなくわたしを癒してくれる。
先日、高校のオーケストラ定期演奏会に出向いた。舞台が遠くて、娘の位置が掴めない大きな会場だった。ワクワクしながら会場の雰囲気を自分のものにした。。
演奏が始まる。演奏者のアンサンブルが奏でるクラシック音楽。このメロディ、耳に馴染みがある。あの壁を隔てて耳にした娘の演奏。それがいま目の前にあった。とてつもなく胸が熱くなる。うち震えた。娘が情熱的に演奏する姿が幻想となってわたしを包む。
時間は瞬く間に過ぎた。我を忘れて(ブラボーッ!)と胸のうちで喚呼し、強く手を叩き続けた。
これからは、娘抜きのクラシック鑑賞を考えられないだろう。
(2012年10月3日気流掲載)