母を想う
「やかましい!」
母を
怒鳴り上げた
あの日を
いまも
忘れない
若過ぎた
失意を
どうしようもなく
腹立たしさを
ぶつけてしまった
それも
母に
黙ったまま
苦く笑った
母の優しさ
それに甘えてしまった
無性に
悔やまれてならない
母が
逝って
気の遠くなる
日々を経た
もう謝っても
母の笑顔は
かえらないんだな
「やかましい!」
母を
怒鳴り上げた
あの日を
いまも
忘れない
若過ぎた
失意を
どうしようもなく
腹立たしさを
ぶつけてしまった
それも
母に
黙ったまま
苦く笑った
母の優しさ
それに甘えてしまった
無性に
悔やまれてならない
母が
逝って
気の遠くなる
日々を経た
もう謝っても
母の笑顔は
かえらないんだな
コラム・父と娘
「おとうさん」
娘がめったに見せないような真剣そのものの顔で話し掛けて来た。
「なんや?」 わたしの声は少しびびり気味。声のトーンがちょっぴりおかしくなっている。
「わたし…つきおうてる人がいてるねん」
(そら来た!)と内心思いつつ、「ほうか」と表向きは無関心を装う。娘の交際は、妻から「内緒やで…」と聞かされて知っている。
「家に来たい言うてる。あいさつしたいんやて」
と告げる娘にあやふやな笑みを返しながら、(おれは父親や)と思い直し、「ああ」とわざとぶっきらぼうに返事した。
妻にわたしの対応を報告している娘の姿にホッとした。
社会人になった娘と談笑しなくなって久しい。男親の宿命とあきらめの境地に達したのはいつだっただろうか。
それでも娘はちゃんと父親を認めてくれていた。やはり嬉しい。
よしよし、君が見つけた伴侶だ。もろ手を挙げて歓迎する。
父親復活の記念日を祝して、カンパ~イ!
「おとうさん」
娘がめったに見せないような真剣そのものの顔で話し掛けて来た。
「なんや?」 わたしの声は少しびびり気味。声のトーンがちょっぴりおかしくなっている。
「わたし…つきおうてる人がいてるねん」
(そら来た!)と内心思いつつ、「ほうか」と表向きは無関心を装う。娘の交際は、妻から「内緒やで…」と聞かされて知っている。
「家に来たい言うてる。あいさつしたいんやて」
と告げる娘にあやふやな笑みを返しながら、(おれは父親や)と思い直し、「ああ」とわざとぶっきらぼうに返事した。
妻にわたしの対応を報告している娘の姿にホッとした。
社会人になった娘と談笑しなくなって久しい。男親の宿命とあきらめの境地に達したのはいつだっただろうか。
それでも娘はちゃんと父親を認めてくれていた。やはり嬉しい。
よしよし、君が見つけた伴侶だ。もろ手を挙げて歓迎する。
父親復活の記念日を祝して、カンパ~イ!
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節約は夢のために
(独立するんだ!自分の店持つぞー!)
人生で初めてとも言える目標を立てた。
レストランに勤めて、アパート住まいのひとり身。二十四歳だった。手取り十五万円で家賃は一万五千円。外食と遊興費を減らせば、月に十万円は貯金出来る。それで独立資金は充分まかなえる。単純明快な思考で走り出したわたし。
実家は農家。米や野菜を送って貰って自炊を実行した。喫茶店で飲んでいた珈琲も、インスタントもので済ませた。間食は誰かの奢りでないと一切とらないと決めた。
トイレは勤務先で済ます。昼飯は、仕事場の残り物をつまみ食いして腹を満たした。公園で休日を過ごす方法も身に着けた。
それやこれやで徹底した節約の成果はしっかりと現れた。最初の月末、手元に残ったお金は十二万円!すぐさま銀行で口座を作った。真新しい通帳を手にした時の嬉しさは格別だった。
(これなら、やれる!)と自信を持った。
毎月、通帳の数字が増えていくのを、ドキドキワクワクしながら毎回確認した。
ちょうど三十歳で貯まった額は六百万円。自己資金には充分過ぎる。融資を受けて、店舗を借りれば、独立の夢は叶う。胸のうちに快哉を上げた。
夢と希望を一途に目指す若さが成し遂げたものは、生きる自信と逞しさを伴った。結婚し家族を持つのにつながる成果だった。
あの節約生活は、わたしが生きた証しでもある。
(ライフ・平成二十四年三月号掲載)
(独立するんだ!自分の店持つぞー!)
人生で初めてとも言える目標を立てた。
レストランに勤めて、アパート住まいのひとり身。二十四歳だった。手取り十五万円で家賃は一万五千円。外食と遊興費を減らせば、月に十万円は貯金出来る。それで独立資金は充分まかなえる。単純明快な思考で走り出したわたし。
実家は農家。米や野菜を送って貰って自炊を実行した。喫茶店で飲んでいた珈琲も、インスタントもので済ませた。間食は誰かの奢りでないと一切とらないと決めた。
トイレは勤務先で済ます。昼飯は、仕事場の残り物をつまみ食いして腹を満たした。公園で休日を過ごす方法も身に着けた。
それやこれやで徹底した節約の成果はしっかりと現れた。最初の月末、手元に残ったお金は十二万円!すぐさま銀行で口座を作った。真新しい通帳を手にした時の嬉しさは格別だった。
(これなら、やれる!)と自信を持った。
毎月、通帳の数字が増えていくのを、ドキドキワクワクしながら毎回確認した。
ちょうど三十歳で貯まった額は六百万円。自己資金には充分過ぎる。融資を受けて、店舗を借りれば、独立の夢は叶う。胸のうちに快哉を上げた。
夢と希望を一途に目指す若さが成し遂げたものは、生きる自信と逞しさを伴った。結婚し家族を持つのにつながる成果だった。
あの節約生活は、わたしが生きた証しでもある。
(ライフ・平成二十四年三月号掲載)