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こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

コラム・和食の心を世界へ

2015年04月05日 01時14分18秒 | 文芸
和食のこころを世界にひろげて 

修学旅行先のドイツから帰った高校生の娘。炊き立ての白いご飯に相好を崩した。
「こんなにおいしかったんだ」
 旅行先の料理は口に合わなかったようだ。特にご飯は、食べる意欲を損なうものだったらしい。
 ドイツ料理はソーセージとジャガイモが、どっさり使われると、だれかに教えて貰った。いくらポテトチップスが好物の娘もうんざりするほどだったのだろう。それにアジア米。調理する人の顔も心も見えない。娘の口に合わなかったのも当然なのかも知れない。
 先だって国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に和食が登録された。和食の魅力が世界を凌駕する日も近い。
 しかし、国内で食品の虚偽表示などの問題が表面化した。人の命を育み、喜びや癒しを与えてくれる食の世界に欺瞞などとは論外である。それが表面化した以上、食の意味を真摯に見詰め直す最高の好機に代えるべきだ。
 下味に愛が必須の家庭料理とまではいかなくても、食べる人へのちょっとした思いやりを忘れない料理が世界中に浸透してほしいと願うのは欲に過ぎるだろうか。
(発言掲載・2014年12月)
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小説・ぼくらの挑戦ーそれは(完結)

2015年04月05日 00時03分53秒 | 文芸
末松は相変わらず酒を食らいながら、東京行きの準備をしている有子にブツブツ愚痴った。これまでのように声を荒げはしなかった。
「……娘が東京へ恥晒しに行きよんのん、止めるもどないも出来ひん父親て、一体なんやねん。情けのうて、情けのうて…世の中のやつらに馬鹿にされるんも当然やわなあ。ええか、有子。所詮もんはもんでしか分かり合えへんのや。…そやないか、有子。お前がなあ、あの中川の糞ったれめの芝居に出よったら、どない新聞に書かれよったか、まだ忘れとらんやろ。ふん。差別の問題を正面から見据えたテーマの舞台『壁よ!』は、被差別に生きる主人公を、作品のモデルとなったの女性が勇気をもって演じ、白熱の訴えをし、会場に感動を与えた…だとよ。フフン。お前は見世物やがな。ちゃうか?それでも、お前、満足なんか?それで差別がどないかなるんか?どないもなるかい。どないかなるぐらいやったら、当に差別はのうなっとるわい!クソッタレが……!」
 酒をかっ食らってブツブツ文句を足れる末松は感極まったか、目を潤ませた。父の言わんとすることはよく理解出来た。だからと言って、声を上げないのは間違ってる。そう…!
 これまでのように単純に逆らえない何かが、末松の姿にあった。父の鬱屈してみえる姿に夫、真治の姿が重なる。だから、東京に向かう有子は、いつまでも妙に父が気に掛かってしかたがなかった。
有子は誠悟が問い掛ける目を避けなかった。
「うちが東京の舞台の上で、現実にこんあ差別が罷り通っていると、心から叫んでみたって、なんになるんやろ。……そない思えば思うほど、どんどん空しゅうなってしまうん」
 そこには、あの戦う姿勢を決して崩そうとしなかった有子の姿は、もう微塵もなかった。
「有ちゃん。そない弱気になったら、あかんで。差別は君だけの問題やない。そやろ。人間一人ひとりが差別のいやらしい現実をちゃんと受け止めて、次への一歩を踏み出すことが、いま必要なんや。そのきっかけになろうとしてるんやろ、ボクらは。ボクらは芝居を…舞台を通して、その先陣に立つんや。僕らが差別に挑戦するんや。蟷螂の斧や言われるかも知れへん。分かってるこっちゃ。僕らは差別という巨人に挑む蟻の仲間や!僕も有ちゃんも、もう一人やないんやど!」
 誠悟は有子にではなく、自分を鼓舞していた。それを有子もよく分かっていた。

 東京最後の日を遂に迎えた。本大会で栄冠を得た最優秀賞の兵庫県代表、優秀賞の北海道代表と二チームが、日生会館ホールで大会の掉尾を飾る受賞部隊の再演をしてみせる。
 舞台袖に待機する誠悟は、胸の高鳴りに身を委ねながら、今日に至る悪戦苦闘する日々を思い出した。その成果が、二日前の本番舞台だった。誠悟らの舞台『壁よ!』は差別を真摯に描き出し、観客に感動を与え、共鳴を得ることに成功した。その感動と共鳴は、いつの日か差別の見えぬ壁を突き崩す原動力になると信じたい。
 いきなり誠悟の左手を捉まれた。温かくて華奢な指がきれいに並んでいる。有子だった。
「有ちゃん……!」
「ショウちゃん。…わたしたち、やり遂げたんやね」
「ああ」
「…うん。ショウちゃんが一緒だったから…それに仲間のみんなも……有難う…!」
「うん!ありがとう」
 誠悟は、勇敢なる挑戦者の手を力強く握りしめた。
 一ベルが鳴った。いよいよ始まる。僕らの舞台が、僕らが挑戦のファイナルの時が。ついに来た!
 有子は緊張した顔を笑顔に変えた。舞台の主人公が躍動を始める。誠悟はポンと有子の肩を叩いた。小堀啓介は右手を差し出す。香住彩恵が手をつなぐ。若い二人の恋と差別への挑戦が始まった。
「これからや。これからが、大事なんや」
 仲が先生の声が二人の耳に届いた。そうだ、これかが大事なのだ。
 本ベルのブザーが鳴り響く。緞帳幕がグーンと引っ張られ、スルスルと巻き上げられる。緊張の一瞬!緞帳幕と演台の隙間がゆっくりと広がる。
 暗闇に包まれひっそりと静まり返った客席が、板についた二人の若者の目に飛び込んだ。鼓動を意識して抑制する観客。彼らは感動を待っていた。照明が落とされた客席の闇の中で固唾を呑んでいる。
 その闇も永遠には続かない。いつか必ず晴れるのだ。晴れた先に、若者らは、きっと発見する!希望という世界を手に入れる。
 しかし、本当の挑戦は、それから始まる。差別と言う荒野は限りなく続いているのだから。            (完結)
(平成6年度のじぎく文芸賞受賞作品)
 


 
 


 
 



 
 


 
 
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