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こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

コラム・救急

2015年04月03日 19時41分37秒 | 文芸
 先日突然の事故に遭遇して救急病院に運ばれた。駆けつけた救急車のスタッフの迅速な処置を受け、入院した医療センターの見事しか言いようのない診察、治療、看護を体験した。中でも看護師さんの看護ぶりは、それが仕事とはいえ、感激を覚えるほどだった。
 健康な方だから入院生活と縁はなかった。それで病院スタッフの大変さは人の話から理解していたつもりだが、実際看護のお世話を受けて考えを改めさせられた。
 患者と最も長く接する看護師さんの逞しさと優しさは素晴らしいの一言に尽きる。タメ口をあんなに心地よく思えたのは、彼女らの職業意識がしっかりしている証明だ。事故で落ち込んでいる気分をあっさりと一掃してくれた。病後管理から励まし、共に痛みを感じようとする看護の力は患者に希望を与えてくれた。まさに白衣の天使だった。
 
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コラム・やっぱり最高!

2015年04月03日 12時15分30秒 | 文芸
やっぱり最高!



 二十二年前、幼稚園児だった次男は「ボク、サッカー選手になる」と胸を張った。

 当時からサッカーに親しんでおり、中学・高校でもサッカー部に所属し活躍していた。

 しかし、高校二年の時、ひざの痛みが続いた。診察した医師は「手術しても無駄です」と告げた」

 でも、二男は心底サッカーが好きだったのだろう。一線こそ退いたものの、やめることはなかった。

 いま周囲はW杯の話題で持ちきりだ。直前に行われた親善試合をテレビで観戦していたわたしに、二男がポツリ。

「やっぱり、サッカーは最高だよ。頑張れ、ニッポン!」

             (気流・2014年6月8日・日曜日掲載)
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小説・ぼくらの挑戦ーそれは(その11)

2015年04月03日 01時49分13秒 | 文芸
「お早うございます!崔さん。早いんやなあ。やっぱり勝てへんわ」
「それだけが取り柄やからね」
 京子の笑顔はいつみても素敵だ。店売のベテランスタッフだった。京子は誠悟の三年先輩にあたる。年は三十近い、えらく面倒見のいい女性で、店売の仕事を一から十まで丁寧に教えてくれた。
「やったんやてなあ、江藤くんら。スゴイやないの」
「え?」
「お芝居よ。わたし、姫路まで観にいったんやから」
「ホント?…ですか…」
「知らなんだでしょう。最前列で観てたんよ」
 京子が芝居を姫路まで観に来ていた。誠悟が予想だにしなかったことである。実は、誠悟は一緒に働く京子に好意を抱いている。よくある身近な異性への憧れだった。だから京子がワザワザ芝居を観るために足を運んでくれたなんて、誠悟はもう感激ものだった。
「たいしたもんよ。県を代表して東京に行くんだから」
「自分でも、まだ信じられない気持ちなんです。ぼくらでええんかいなって」
「もっと威張りいな。ええお芝居やったやん。涙出てもうたわ」
「えー?崔さんが、泣いたの?ウソだぁ」
「こら、年頃の乙女になんてこと言うのよ」
「あ、済んません。ほんまのこと言うてもて」
「もう!ブツよ!」
 シャッターを押し上げて、店の掃除を進めながらも、二人の話は弾んで途切れなかった。
「それで、芝居の内容は、どうやったですか?」
 返事はなかった。訝って京子の方を見やると、、彼女は押し黙って、えらく深刻な表情だった。ほうきを扱う動きもやけにぎこちなかい。どうしたんだろう?
「…崔さん…」
「あんなもんじゃないんよ!」
「え?」
「差別って、あんな甘ったるいもんじゃない」
「それって」
 誠悟は反射的に訊いた。
「差別されてるの人やって、どない言うたかて、結局日本人やもんね。あたしらと違う…」
 吐き捨てるような京子の口ぶりに、誠悟はビクッと反応した。狼狽えた。
 崔京子が在日朝鮮人であるのは承知していた。いつも傍にいて仲良く仕事をしていると、そんな境遇にあることを忘れてしまう。彼女は誠悟が好意をもつ、その女性としか見えなくなる。しかし、京子は紛れもなく日本人ではなかった。
誠悟がこれまで知り合った在日朝鮮人や韓国系の人々の大部分は日本名を名乗っていた。それが京子は違う。本名で堂々と仕事をこなす。そして、周囲の信頼を得ている、ちゃんと。
読み方は日本読みだが、朝鮮の名前を隠さない。よく考えれば、それが自然である。誠悟が京子に気を奪われ好意を持つに至ったのは、自分に忠実な生き方をする姿が輝いて見えたからである。
「わたしらね。の人にチョーセンて馬鹿にされるんよ。平気で侮辱して来るの」
 誠悟は何も言えなかった。
「差別されてるもんが差別する立場に立って、そない言うの。そしてケラケラ笑うわけ。差別する側の優越感に浸っているのよ。でも、わたしらには、そんな相手がいない。だって一番下だもん。不公平だと思わない?同じ人間同士なのに」
 誠悟は京子を見つめたまま何度も頷いた。
「誰だって…誰にも誰かを差別していい訳がない!そんな権利があるはずない」
 京子は口を尖らすと、眉をギュッと顰めた。
「江藤くん。はっきり言うよ」
「ああ、いいよ」
「江藤くんらのお芝居、いい出来だったわ。感動した。涙も出た。決して嘘でも何でもない。ただ……!」
「ただ、なに?」
「…差別って、あんなに甘っちょろくない」
 有子の父親ががなり立てた「甘っちょろい!」と言う言葉を、その同じ言葉を京子は使った。全く境遇が違う相手同士から聞く、同じ意味を持った言葉である。弱いものはさらに弱いものに……弱肉強食って四字熟語を思い出した。誠悟は思わずたじろいだ。緞帳幕が下りきった時、襲い掛かる絶頂気分に酔った、あの仲間の姿はなんだったのか。誠悟の満足感は浅はか過ぎたのだろうか?。
 京子が受ける屈辱は容易に想像出来る。
 仕事の出来る京子を、書店の店主も、他の店員仲間も、表立って差別などしない。重宝な人材は流出を防ぐものだ。
(つづく)
(平成6年度のじぎく文芸賞受賞作品)


 
 


 
 
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