子どもの「怒ってるの?」は
「おとうさん、なに怒ってるの?」
いきなり顔を覗きこんだ4歳の息子に言われて戸惑う。というのは、別に腹を立ててるわけではなく、単なる考え事をしていただけなのだ。
「ほら、おとうさん。いつもこの子らに細かい事ばかり言ってるから、顔色を窺われるのよ」
口あんぐりで息子を見つめているわたしのようすに、妻はからかうように言う。
「そんなにうるさくないぞ」
反論すると、待ち構えていた妻の反撃を食らった。
「ご飯済んだらすぐ歯をみがけ!」「テレビは二メートル以上離れて見ろ!」「本は寝転んで読むな!」……。一気に具体的な表現を手振り身振りで妻は見せつける。
「どう?」
意味ありげにわたしを促す。
確かに、すべて思い当たることばかり。
(結構うるさいおやじになってるなあ…)
すこし自嘲に駆られる。
「子どもと顔合わせる機会の少ない父親がそれじゃ、嫌われて当然よ」
妻の追い討ちはキツい。胸にひどく応える言葉がわたしをつきさす。
きょとんとした顔で親の会話に聞き入っている(?)息子に気付いて、ニヤッと頬笑みでやった。照れ臭くてちょっとぎごちない。それでも、ニコリとこぼれるような笑顔を返して来た息子にひと安心した。
「嫌われた父親は、だいたい家庭内暴力の犠牲者になるみたいよ」
物騒な妻の言葉に、さもありなんと思う。
(ええと、空かれるおとうさん像は……!?)慌てて考えるわたし。やっぱり悪い父親なのだろうか。
(神戸・1989年1月26日掲載) 。