お兄ちゃんになる息子
「お母さんはおなかに赤ちゃんいるから、僕持つよ」
一瞬耳を疑った息子の言葉。いま4歳、とても甘えん坊で、いつもべたべたくっついて来る。ひとつ上の姉とは仲がよくてよくふざけあうが、すぐすねる。自分の願いがかなわないと泣きじゃくって見せる。そんな困りん坊が、妊娠した時に、「もうすぐお兄ちゃんになるんだよ」と、ふたりの子どもを前に報告してから、目立って変わった来た。
姉の方はもともと世話焼きな性格で優等生だったが、最近は何かにつけて息子の方が姉に対抗心を燃やして親切にしてくれるのである。
自分の体の倍近いバッグを体中で支えてフラフラ歩く息子の後を歩きながら、(さすが男の子、頑張るなあ)とほお笑んでしまう。しかし、三人目の子どもを産む決心をしてよかったと思う。
ひとりっ子で育ったわたしには兄弟の味は想像すらできないが、この息子の変身ぶりが兄弟のよさを証明してくれている。鏡台がそれぞれ影響しあって我慢も負けん気も思いやりも……いろんなものが見についていく。
いままではいちばん下だった息子が、お兄ちゃんになったらどんな変化を見せるか、おおいに楽しみである。きっと、頼りがいのある……。
「お母さん、もう重いよ!」
急に立ち止まって振り返る息子。うん、まだまだ末っ子、無理はないんだ。思わず顔がほころんだ。
(神戸・1988年8月29日掲載)