05/6/10海保
使命ム計画・実行・確認サイクルと
ヒューマンエラー
---ミスに強くなる心の訓練---
筑波大学心理学系 海保博之
第1「使命の取り違えエラー」
●教訓「事故を起こすより遅れたほうがまし」
●事例 あと3日と納期が迫ってきたので、急いであれもこれも同時にやり、たくさんの資材をもったままつまずいてしまい、ひやり。
●事例を分析する
1)納期が迫ってきたため、無理をした
仕事に納期はつきもの。しかし、そのために無理をすれば不安全行動をしがち
2)いくつもの仕事を同時にして(多重課題)、力量の限界を越えてしまった
目一杯あれこれ仕事をかかえてしまうと、ちょっとしたことが加わるだけでエラー、事故となりがち。
●対策
1)納期までのスケジュール管理をきちんとする
2)仕事を一人で抱え込まないようにする
●使命の取り違え傾向度チェックリスト(得点; 点)
1)人に喜んでもらうのが好き( )
2)決まりや手順より、その場にふさわしいやり方でやる( )
3)人に自慢をすることが多い( )
4)競争では負けるのが嫌い( )
5)何よりも時間厳守が大事( )
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●「使命の取り違えエラー」を防ぐ対策のいくつか
1)使命を意識して絶えず確認・活性化をはかる
日本社会は、ハイ・コンテクスト文化。暗黙の使命が支配している。したがって、しばしば、使命と内化目標との間にズレが発生する。安直な業績主義、合理化は、暗黙のしかし強力な目標となって、エラー、事故を誘発することが多い。
2)適度に具体的な目標に落として意識化する
上位の使命(理念的使命)も下の使命(行動的使命)も同時に意識できるような使命構造にしておく(ミドル・アウト表示)。
例 「患者第一」より「安全ケアーを第一に」
「安全運転」より「法定速度の遵守」
3)目標行動を単線化して、目標間の葛藤を起こさせない
安全が何より大事かを完璧にわからせる
例 3つの使命が葛藤している例
時間決め配達 安全運転 競争
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第2 思い込みエラー
●教訓「知ったかぶりは誤った状況認識の元凶」
●事例 新しい作業場へ配置変えになった。つい、前の作業場でやっていた通りにやってしまい、ひやり
●事例分析
1)仕事の内容が前の職場での仕事と似ていたので、つい、前の手順でやってしまった
新しい職場でも前と似たところはないかを探します。そして、それだけに依存して状況認識をしてしまうと失敗します。
2)自分の有能さを見せたいために、前の職場でのやり方を持ち込みすぎた
新しい職場での自分の存在をアピールしたくて、教えてもらう、学ぶ気持ちが後回し。
●対策
1)新しい職場では、旧職場と違ったものやことに注意する
2)自分一人で即断即決しないで教えてもらう
●あなたの思い込みやすさをチェックしてみる
1)勘違いすることが多い( )
2)即断即決するほう( )
3))何がなにやらわけがわからないのは嫌い( )
4)見込み運転するほう( )
5)人の意見をあまりきかない( )
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●「思い込みエラー」を防ぐための対策のいくつか
1)わけがわからない状況にしない
・仕事の目標や全体像をあらかじめ意識する
実習「大文字のTをさかさまに描いて、その上に三角形を」
・仕事に関連する知識を豊富にしておく
2)あえて判断停止(エポケ)をする
・情報収集の時間をかせぐ
・ステレオタイプ(固定観念)による思い込みの防止
3)自分の思いを人に話せるようにする/話すようにする
・コミュニケーション環境を良好にしておく
・人と情報を共有する
・思いを外に出すことで自分の思い込みに気がつくことがある
4)現場を一時的に離れてみたり、知識量や考え方の異質なメンバーを入れて、新鮮な目(fresh eye)によるチェック体制を作り込む
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第3 うっかりミス
●教訓「同時に複数の仕事はしない」
●事例 道路工事で、交通整理をしながら作業の指示もしていている。そこに携帯電話がなり、その対応で、交通整理がおろそかになり車が急ブレーキでひやり
●事例分析
1)突然、割り込んできた携帯電話に注意がとられてしまった
携帯電話は突然、割り込んできます。それに注意をとられてしまい、本来の仕事がおろそかになってしまい、ひやり。
2)いくつもの仕事を一人でかかえてしまい、能力を超えてしまった
たくさんの仕事をかかえていると、目一杯でがんばってしますから、そこにもう一つの仕事がくれば、パンクしてしまいます。
●対策
1) 優先順位を確認しておく
2) 割り込みを受けうけない
2)仕事を仲間に割り振る
3)頭の中だけに抱え込まないで、やるべきことを外に出す(外化)
●うっかり傾向度チェックリスト
1)一日一回くらいはうっかりミスをする( )
2)見落としや聞き間違いが多い( )
3)計算ミスをよくする( )
4)注意が散漫で持続しない( )
5)感情的になることが多い( )
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●うっかりミス」を防ぐ対策のいくつか
1)仕事に必要な注意量を考える
たとえば、あわてると、注意配分がうまくいかなくなり、特定の対象に注意がとらわれたりして、状況認識を誤ってしまう。
2)注意資源をいつも100%使うような状態にしない
多重課題を避け、メモや仲間などの外化支援をフルに活用する
3)管理用の注意を残しておく(複眼集中の状態にする)
仕事用に7割、管理用に3割くらい。管理用をうまく使って注意の選択、配分、持続をコントロールする。
4)感情を安定させる
感情は注意の調節弁
例 パニック時 恐怖が一点への過剰集中をもたらす
高ストレス時 ストレスの原因に注意が取られる
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第4 確認ミス
●教訓「確認はエラーを事故につなげないための最後の砦」
●事例 指差し確認をしたのですが、実は動作だけをして確認をしていなかったため、入室危険の部屋のがあいたまま
●事例分析
1)確認行為が形骸してしまっていた
確認行為が身についているのは良いことですが、いつも「よし」ばかりが続くので、つい、確認がおろそかになった。
2)確認行為そのものには注意を払ったが、確認するものを忘れてしまった
大事なのは、確認する行為そのものではなく、行為の先にある不安全事態のほうであることを忘れてしまった。
●対策
1)鍵を2つ用意する
2)2人で確認する
●あなたの確認習慣をチェックする!!
( )寝る前に火の消し忘れや施錠忘れがないかが気になる
( )何事も一度の確認では気が済まない
( )忘れると困ることはメモや貼紙をするようにしている
( )複数の手段で複数の人から確認をとることがよくある
( )人に、確認したかを聞くことが多い
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● 「確認ミス」を防ぐための方策のいくつか
1)一連の仕事の流れをあえて中断して確認する場所--ホールド・ポイント--を設ける
とりわけ、仕事に熟練すると、ほとんど努力なく「むり、むだ、むら(3つのム)」なく流れるかのごとく仕事が進んでいく。たくさんの要素行為があたかも一つの行為であるかのごとくになる。これを「仕事のマクロ化」と呼んでおく。マクロ化した作業の途中で、うまくいっているかを確認するのは、なかなか難しい。
2)確認を動作として外に出すようにして(外化)、確認行為を確実なものにする
例 指さし呼称
指でさす--->確認場所や行為への注意の焦点化
呼称--->頭の中だけの確認にしない
3)確認は複数で独立に行なう
4)モードを変えて確認を行う
おわりに
「使命ム計画・実行・確認サイクルとエラー」
●やらずもがなのことをしてしまう「使命の取り違えエラー」
例 ノルマを達成するために手順を無視して効率化をはかってひやり
●勝手な思い込みをしてしまう「思い込みエラー(ミステイク)」
例 モニターの警報が鳴った。いつもの警報の不 具合と思い込んでいつもの操作をしたが、圧力が限界点に達してしまいひやり。
●やるべきことをしない/余計なことをしてしまう/やる順序を間違う/やるタイミングを間違う「うっかりミス」
例 同僚と話をしながら、機械操作をしていたら、あやうく機
械に巻き込まれそうになった。
●やるべきこと/やったことを確認しない「確認ミス」
例 確認「行為」はしたものの、きちんとしなかったために、工具を置き忘れてしまいひやり。
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付録「ヒューマンエラーを事故につなげないための7カ条」
第1条「エラーは誰もがしてしまうとの自覚を持つ」
第2条「エラーについての知識を豊富にして、折に
触れて、その知識を思い出すようにする」
第3条「ヒヤリハット体験から学ぶ」
第4条「自分にできることとできないことを知る」
第5条「危険(リスク)度の高いところでは、確認
につぐ確認と多彩な確認手段を用意する」
第6条「エラーが事故につながらない工夫を考える」
第7条「安全の仕事は自分一人で抱え込まない」