●実証の桎梏
やや余談じみた話になるが、心理学が是としている実証は、心の研究にとって時にはさまざまな桎梏(あしかせ)となってしまうことがある。
最も厳しいケースは、かつて行動主義が隆盛を誇っていた頃を思い出せばよい。自然科学と同じレベルの実証性を心理学に求めたために、心を研究対象から排除して、観察できる行動だけに限定せざるをえなかった。
前述したように、近年の心理学における実証の概念は、かなり幅広くとらえられるようになってきて、心理学固有の実証の概念が研究者の間で受け入れられるようになってきた。それに伴って、「実証の桎梏」ゆえに心理学の研究対象から排除されていた心の諸問題が、自由に取り上げられるようになってきた。
一方では、実証の概念を広く取りすぎると、本来の「実証」の枠を超えてしまう危険性があるが、とりあえずは、心の研究領域が広がったことのメリットのほうを評価しておきたい。