奇妙なことに、超情報化社会と言ってもよいほどの社会の中で、子どもの勉強の環境は必ずしも良好とは言えない。勉強よりももっとおもしろいことがITの世界には溢れているからである。
ゲームに熱中する。Lineでの友達とのコミュニケーションに時間を取られる。ある調査によると、女子高校生は1日平均7時間もスマホを使っているとのこと。それはそれで、学べることはたくさんあるとは思うが、勉強の大敵であることは間違いない。まさに、「スマホより机に向かう青春を」(某予備校のキャッチコピー)である。とりわけ子どもでは、認知資源も時間資源も極端に限られているのに、そちらのほうに資源をとられてしまうのは困る。IT断食をする時間、場所を限定してでも、せめて家庭内だけでも実施することもあってよいと思う。
IT技術を、たとえば、学校などで積極的に勉強に導入することもあってよいし、家庭での勉強を助けるためのスマホの勉強アプリも勉強好きには有効だとは思う。しかし、「遊びもスマホも勉強も一緒」よりは、まずはそれぞれをしっかりと分離した環境を整えるほうが先決であろう。とりわけ、低学年においては、モードチェンジ(「これからは勉強時間です!」)は、別途に述べる勉強の習慣化にも絶対に必要なことだからである。
さらに、大事なことがある。
IT技術は高度化が進み、あまりに巧みな勉強環境が作りこまれてしまい、勉強に付随する自助努力や自分なりの工夫があまり必要とされなくなっている。教材の視覚化、系統化、さらに勉強の持続を支援する仕掛け(後述するモチベーション管理)などなど、どれをとっても高度な「心理学的」技術が組み込まれ、しかも効果的である。悪いことではないのだが、これが過度に提供されると、勉強は、見かけは効率的、効果的に進捗するように見えるが、勉強する過程で身に付けるべき自分をコントロールする自律的な力、たとえば、わからなさを解消する工夫、あるいはわからなさに耐えたり、集中力を加減したり、さらにその勉強以外のことと関連づけたりといった力が身につかない恐れがある。
良すぎる勉強環境にも問題ありなのだ。