創作日記&作品集

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物語のかけら⑰

2006-08-05 15:59:01 | 創作日記
日曜日に教会でイローナは歌う。司祭のヴァイオリンは美しい花をそよがせる風。
イローナの歌はその風に乗り、遠くの世界へと人々を誘った。城にもイローナの噂は届いた。
「それはもう大変な評判で」
王女の髪を梳かしながらは女官は言った。
「そう」
興味はなかったが退屈していた。歌わせて、無理難題を押しつけるのも面白いかも知れない。
「盲目のヴァイオリン弾き」
「司祭様です」
「神にも歌手にも仕える。物乞い」
女官は黙った。王女の目に怒りの光が浮かんだからだ。

次の日も、女官がイローナの噂をした。
「ローマの教会に呼ばれたそうです」
「ヴァイオリン弾きもか?」
「はい」
「ヴァイオリンってとてもいい音が出るそうよ」
柱の陰から声がした。
「盗み見、盗み聞き、貴女はとても高貴なお方。歌手とヴァイオリン弾きをここへ呼びなさい。ローマへなんか行かせない」