散日拾遺

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呑気のありよう/サンコクをどう見るか

2014-11-14 07:18:41 | 日記

2014年11月14日(金)

 「見て来ましょうか」と三四郎が聞いた。

 「なに、見に行ったって、それで出て来るような男じゃない。それより此処に待っている方が手間が掛からないでいい」といって枳殻(からたち)の垣根の下にしゃがんで、小石を拾って、土の上へ何か描き出した。呑気なことである。与次郎の呑気とは方角が反対で、程度がほぼ相似ている。

(三四郎 第三十一回)

 「方角が反対で、程度が相似ている」、これはいいや。

 「符号が反対で、絶対値が同じ」とでも言ってみようか。

***

 三省堂の国語辞典が「三国(サンコク)」として有名になっている、らしい。現代的な語彙を大いにとりいれ、それこそ何でも載ってるというので購入してみた。どうせなら「大きな活字」が今後にありがたいので、でっかい方をえっちらおっちら。で、最初は何を引こうかなと、

 思っていたところへ日曜日の朝、「主の名をみだりに唱えてはならない」、第三の戒めだ。中高生に話す準備をしていて、ふと「みだりに」が気になった。本当は、どういう意味なのだ?

 すわ出番、卓上にでっかいサンコクを広げ、「みだりに」を引けば・・・

  みだりに(妄りに)【副】 正当な理由もなく。 「 - 立ち入ることを禁ずる」 

 ん~??それはそうなんでしょうが、それだけ?何だか物足りない。で、比較してみる。こちらは「みだり(乱り・妄り・濫り・猥り)」という大項目に詳しい説明があり、その小見出しに下記。

  みだりに(妄りに・濫りに・猥りに)【副】 [形容動詞「みだり」の連用形から] ① 分別なく行うさま。「 - 口出しをするな」 ② 正当な理由や資格もなく行うさま。 「 - 立ち入ることを禁ず」

 ははあ、そうか。僕にとって、ひとつは「形容動詞「みだり」の連用形から」という由来の説明が欠かせない。もうひとつは、音読みの漢字が一つではなく三つ示されていること、そして語義・用例に「分別なく」が加えられていること、この雑駁な豊かさがたいせつと感じられるのだ。サンコクは思い切りよくそれらを捨象し、「副詞、『正当な理由もなく』」で片づけている。

 「要するにそれは何か」が分かる、簡潔でやさしい説明」とは、そのことか。

 ひとつの見識だと思うし、自分でも便利に使うことはあるだろう。しかし、これを座右の基本辞書にしようとは思わない。

 「要する」時に削られて落ちるものの中にこそ、言葉(言の葉)の命がある。ついでに話を広げるなら・・・