散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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「みだりにとなえる」?

2014-11-15 23:14:26 | 日記

 2014年11月16日(日)

 博士課程入試があって礼拝に行けない。

 出る間での時間、「みだりに」の件に取り組んでみる。ヘブル語はほとんど分からないが、あるだけの資料を床に広げて考える。ヘブル語の旧約聖書、これが原典だが、何でこんなに分厚いのかな。その隣に、英語で書かれた旧約ヘブル語辞典、これがまた分厚いのだ。その横に『旧約聖書ヘブライ語入門』(片山徹)、これは昭和51年刊行の小さな本で、もともと手書き・ガリ版刷りだったものを書籍の体裁にしたらしい。昭和53年度の前期に、文学部の「旧約聖書ヘブライ語」を履修しようとして、3~4回で挫折した時のものだ。一般書店では手に入りにくいので、受講生の一人がわざわざ人数分をどこかから仕入れてきた。あの時もう少し頑張っておけば良かった。これに新共同訳聖書をぐるりと並べ、亀のように這いつくばって、亀が首を回すように見回し見比べる。焦点は出エジプト記20章7節。

 知らない言葉を初めて勉強する時、それはもどかしいのだが楽しみがある。同じ顔をした無意味な図柄に見えていた文字列が、ある時ある部分で、ある意味をもつまとまりとして浮かび上がってくる。するとその光に照らされて、隣の単語がまたひとつ浮かび上がる。この連鎖が始まると、それまでの苦労が一度に報われた気がして、さらに一歩を進められるようになる。

 小一時間ほどで、それが起きてきた。「神」「主」「名」・・・それがこれで、これがそれだ、すると「みだりに」はどれだ?違う、「みだりに」という副詞として置かれているのではない、「みだりにとなえる」という意味の動詞一語が・・・これだ!何と読むのだろう?

לשך  

 左端の字は違っているかもしれない。似た顔のいくつかの字がまだ弁別できないが、顔立ちを頼りに辞書で引くことはできる。英語が示すその意味は・・・ use the toungue, only specif., slander

 slander?

 これは「誹謗する、中傷する、名誉を棄損する、辱める」、要するに、はなはだしく貶めることだ。

 「みだりにとなえる」だって?

 違うよ、そんなヤワなことじゃない!


ついでに話を広げるなら/「時間調整」のこと

2014-11-15 16:18:16 | 日記

2014年11月15日(土)

(承前)

・・・ついでに話を広げるなら、「要するにそれは何なのか」を性急に知りたがるのは、現代人の根性に染みついた悪癖である。大人がそうなので、子どもも右へならえは当然だ。小学生は、理科の実験プロセスを楽しもうとせず、結果がどうなるかばかりを聞きたがって先生を当惑させる。大学生に、自分で図書館へ行って調べるよう指示すると、「答えを知っているのに教えないのは不親切だ」と授業評価アンケートに苦情が書き込まれる。

 他の領域はいざ知らず、教育に関してこの性向はかなり危機的だ。教育が有効であるためには、ある程度の(時にかなりの程度の!)不便が構造的に組み込まれていないといけない。精神分析療法などと同じで、欲動を即時に解消「しない」ことが肝心なのだ。欲求充足の遅延に耐え、むしろこれを楽しめるようになるかどうか、そこに教育の成否が掛かっている。悪しき顧客万能主義は、この基本構造をすっかり食い破ってしまう。

 サンコクには酷だったかな、「要するに何なのか」を急いで知りたい時もあるからね。ただそれは顧客サービスに適合的な(あるいは一刻を争う研究の場で必要とされる)話で、人を育てるという意味での教育とは基本的に志向が正反対なのだ。サンコクは前者に徹して編まれたもので、それをどう使うかはユーザー次第ということなんだろう。

***

 昨日は少しばかり診療に遅刻したが、家を出たのはいつもと同じ時刻だった。最寄りの電車が「時間調整」をやってくれたのが直接の原因である。

 以前から気になっているんだが、「後続列車の遅れのため、先行列車がわざと発車を見合わせて時間調整をする」という、あれはどうなんだろうか。局所的な混雑を避けて平準化を図るという俯瞰的な意味は分かるのだけれど、先の列車に乗っている人間にはいつも不満が残る。「後の電車が遅れているからといって、なぜ自分までもが遅れなければならないか」という趣旨である。先発列車の乗客が昨日の僕のように、一定の時刻に到着できるようスケジュールを組んで乗車した場合、この処置は定時に到着できない人間をその分だけ増やすことになる。混雑は緩和されても、時間に遅れる人間の数は逆に増えてしまう。

 何が正しいかの判断は、ただこれだけのことでも難しいという一例だが、この件については生じるであろう混雑の程度や規模を考慮せず、運行間隔がある程度まで広がると自動的に「調整」しているように見えるのが気になるのだ。

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 え~っと、冒頭の話は「みだりに」の語義から始まったわけだった。

 まずは国語辞典をあたったのだが、この文脈で「みだりに」とはそもそも何か、と考え始めると、次はヘブル語を参照せねばならないことになる。(続く)