散日拾遺

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メアリーポピンズの髪の色 / メックスヒェンお気に入りの寝床

2017-03-07 08:07:23 | 日記

2017年3月7日(火)

  "What a funny bag!" he said, pinching it with his fingers.

  "Carpet," said Mary Poppins, putting her key in the lock.

  "To carry carpets in, you mean?"

  "No, made of."

  "Oh, " said Michael.  "I see." But he didn't - quite.

 おおよそ思った通りだが、原文はさらにシンプルかつ軽妙である。どの言語にもそれぞれの文法システムを活かした表現上の工夫があるが、英語の場合、代動詞 do がしばしば節約の妙を作り出す。"But he didn't." これだよね。そしてその前の "No, made of."

 さっそく1円(+送料)で購入した "Mary Poppins" のオリジナルで、当分楽しめそうである。

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 急ぎ訂正。「イギリスでは風は西から吹くもので、そこへ東風の吹くのが非日常の合図」などと書いた。つまりメアリー・ポピンズ出現の後、滞在の間は西風に戻り、次に東風が吹くときに彼女が旅立っていくのだと思い込んでいたんだが、てんでマチガイでした。

 春の第一日、

 「西風の天気だ。あかるくて、さわやかで、外とうはいるまい。」とバンクス氏。

 「おとうさまが、いったのきいた?」マイケルはいきなり、ジェインの腕をとりました。

 ジェインは、うなずきました。そして、「風は西」と、ゆっくりいいました。

 ふたりは、それっきりなにもいいませんでした。しかし、それぞれの胸のなかには、ある考えが浮かんでいて、消そうと思っても、消すことができませんでした・・・

 西風は温かく春を運び、東風は冬を支配する、そういうことらしい。するとメアリー・ポピンズは白鳥なんぞのように冬の国に属し、東風とともに来たり、また去るのかしらん?

 メアリー・ポピンズのもうひとつの小さな不思議、彼女は黒い髪と青い目をもっている。金髪碧眼 vs 黒い髪&瞳という定型から外れているのだ。もちろんそういう組み合わせの人も大勢いるけれど、髪の黒金も目の黒碧もメラニンの多寡で決まるとすれば、総じて黒髪なら目も黒く、金髪なら瞳も碧いのが、自然といえば自然である。作者トラヴァース、1934(昭和9)年に世に出したこの主人公に、いったいどんな思いをこめたものか。

 

(https://matome.naver.jp/odai/2145611268028174901)

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 大学あたりで英語以外の外国語に触れる楽しみは、幼少期に翻訳の中で出会った謎が解けたりすることである。僕は最初ドイツ語を選択し、『サーカスの小びと』でその楽しみを知った。主人公の命名からしてユーモラスで、彼は Mäxchen と呼ばれるんだが、これは「大きい」を意味する Max に縮小語尾 -chen が付いたものだから、小びと君の呼び名としては絶妙である。

 それから、彼がサーカスの芸を練習するために男性等身大のマネキン人形を使うんだが、このマネキン人形の名前がウンジヒトバル少尉とか何とか言うのである。ウンジヒトバルって何だ?「ウンジ-ヒトバル」か、「運時人春」かとか、頑是ない小読者としてはけっこう悩んだものだ。

 長じて知った正解は「ウン-ジヒトバル」すなわち "un-sichitbar" で、「目に見えない」というほどの意味になる。小びとの Mäxchen に大のおとなの Unsichitbar、そこかしこにドイツ風のおっとりとしたユーモアが仕掛けられている。そうか、『サーカスの小びと』も是非に原著で再読したいところ、寿命が何百年あっても足りないかな。

 ちなみに Mäxchen はマッチ箱をお気に入りの寝床にしている。マッチ箱のコレクションが趣味として成立した、古き良き20世紀の物語である。

 

Ω