散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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花時計

2019-08-15 15:30:36 | 日記
2019年8月12日(月)


 前庭の秋の主役は、野放図に2mあまりも伸びた酔芙蓉(すいふよう)である。花が咲かないから伐ってしまうの、まだ時期が早いもう少し待つのと押し問答したのも懐かしいが、今年最初の一輪が今朝めでたく開花した。といっても、この写真では判らない。丸印を付けた部分(↓)、ありゃりゃ、これでも見えないのは露光調節がヘタクソな証拠だ。例年西側の開花が多く、かつ早い。東側が高縄山系で日差しを遮られるためか。


 以下、拡大写真を経時的に。

07:50 純白

12:30 ほんのり薄桃がかる

16:30 すっかり桃色

 一日のうちにこうして色の変わる様を、ゆるゆる進む酩酊にたとえて酔芙蓉と命名したものであろう。生物学的にはいわゆる芙蓉の八重バリアントだそうで、フヨウ(芙蓉、Hibiscus mutabilis )に対してスイフヨウ(酔芙蓉、Hibiscus mutabilis cv. Versicolor )とある。中国・台湾、沖縄・九州・四国に自生するとのこと、半島で愛好されるムクゲに対してこちらはいくらか南方系と見える。
 「芙蓉はハスの美称でもあるところから、特に区別する際には水芙蓉(ハス)に対して木芙蓉(フヨウ)と称する。水芙蓉と酔芙蓉を混同すべからず」とWiki に親切な注記あり。
 これから秋口まで、通常のフヨウや意匠とりどりのムクゲ、さらにはオクラなどとあわせ、アオイ科の花々が日々楽しい。とりわけ酔芙蓉は母の好みで数年前に植えたのが、土に合ってこの隆盛、と思っていたら、
 「あなたが好きだというから植えたんじゃないの」
 昨夏、母の託宣あり。自分にはまったく先行記憶がなく、母の洒脱な置き土産とばかり愛でている。
 記憶は常にずれるのが面白い。いっぽう花の変色は至って規則的で、おおよその時刻が推測できるほどである。花時計とは何とおしゃれな。

Ω
 

ハンターの血統

2019-08-15 14:36:17 | 日記
2019年8月11日(日)
 で、結局今年もやられた。
 長崎の日に、珍しく霧がかったしまなみ海道を渡り、翌日から朝夕の1時間余を草刈りにあてる。夕方、クルミの大木の周囲にまとわりつく若竹を引き抜いた瞬間、頭上に怒りの羽音。「あ」と思ったときには右の耳たぶに例の痛み。竹がクルミの枝と絡まるところ、地上2mあたりに確かに巣が鎮座していた。
 首から上を刺されたのは初めてで、ハチアレルギーもあるらしいところから、どんな恐ろしいことになるかと身構えたが、意外にも手指を刺されるのに比べずっと楽に経過した。毒の刺入量が少なかったか、解剖学的な理由もあるかもしれない。
 上肢は手根管に大きな関所があり、それより末梢は骨・皮膚・結合組織に囲まれた閉鎖構造が指関節ごとに細分された作りだから、炎症産物の逃げ場がなく内圧が高まって痛みが強い。対照的に耳たぶは開放的な構造なので、炎症産物が逃げやすく圧もさほど高まらない・・・のではないか。
 24時間後には正面から鏡を見て、右耳だけダンボ状に横に突出して見えたが、さほど痛くもなく予定通り48時間でほぼおさまった。これに懲りて作業時は防虫ネットを頭からかぶることにした。初めからやっとけという話である。
***
 その翌夕、アジサイを剪定していたら、隣の珊瑚樹の幹にカマキリ発見。緑と茶のストライプが、葉と枝の狭間で有効な擬態になっている。そしてもちろんピクリとも動かない。知人の息子さんに「存在感を消すのが特技」という若者があるが、植物的な印象とは裏腹に、実はハンターとして希有の素質をもっているのではあるまいか。


 しばらく見とれた後、アジサイの方を振り向くと、その葉裏に・・・


 小さいながらも、あっぱれ一人前に静止している。カマキリの子はカマキリ、それぞれどんな獲物を得たのだろう?
Ω

ハチの巣処理にあえて殺虫剤を使おうかと思う理由

2019-08-15 07:58:07 | 日記
2019年8月8日(木)
 おさらいしておくと:
 アシナガバチ(以下、単にハチ)は攻撃力の強い昆虫だが、その攻撃パターンは専守防衛のお手本のようなものである。巣から半径1m程度の空間内に侵入してくる物体に対して直ちにスクランブルをかけ、相手の大小強弱にかかわらず躊躇なく攻撃をしかける。一方、巣から約1mも離れたならば、餌となる芋虫などへの狩猟行動を別として、自分から攻撃することはまず絶対にない。庭の真ん中でブンブンうるさく寄ってくるのは、ハチではなくアブの類いである。
 それにも関わらず毎年飽きもせずハチに刺されるのは、巣があるのに気づかず、モクセイの枝だのアジサイの茂みだのに手を突っ込むからである。もう少し早め(=遠め)に威嚇してくれると良いのだが、枝を揺らしたりするとハチは警戒して動きをいったん控え、やおら急攻に転じるので始末が悪い。樹木は剪定を要するのがつらいところで、そうでなければ developer_waiwaiさん のようにそっと見守りたいものである。
 軒下につくられたセグロアシナガバチの巣の消長を、数ヶ月にわたって観察した興味深いブログが下記。
⇒ https://matome.naver.jp/odai/2137990172545376901?page=2 

 よくまとまっていて付け加えることもないが、一点だけ。ハチのすぐれた帰巣能力は周知の通りながら、その裏とも言うべき皮肉な事実がある。たとえば地上3mのハチの巣を直下に落としたらどうなるか?ハチは落ちた巣を探索発見できるだろうか?
 答えは 「否」である。ちりぢりになったハチはすぐまた戻ってくるが、つい先刻まで巣が存在した場所を虚しく飛び回るだけで、直下に落ちた巣には気づく様子がない。たった今彼らの巣を叩き落とした憎むべき加害者(=僕)が目の前に突っ立っているのも、まるで目に入らない様子であり、従ってこちらは無垢の傍観者のように安全である。この点についてはスズメバチ類も同じであること、二度にわたって確認した。(ええ、ものすごく怖かったですよ・・・)
 要するに、ハチの帰巣能力はもっぱら空間座標の正確な記憶に依拠しており、巣という実体を識別探索する能力は極端に乏しい ー 無いに等しいのである。ハチの巣処理に殺虫剤は無用、ただ巣を落とせばそれで足る。

***

 で、帰省の中継地点にあたるT市の住居、ここにいつの間にかアシナガバチの巣が育っていた。洗濯物を干すデッキの裏側で、デッキには風通し良く隙間を設けてあるから、これは放置観察という訳にいかない。もちろん殺虫剤は無用、長い物干し竿で巣の茎をつついてあっけなく落とした。その一連の写真。

 個体の体格がよくて、日頃見慣れたアシナガバチより一回り大きい感じ。

 地上に落ちた巣。60穴ほどもあるだろうか。

 ここがポイント。上の円が巣のあったところで、ハチどもが密集しているのがわかる。落ちた巣は下の円、ほぼ直下3mで遮るものもなくむき出しだが、ハチはこれに全く注意を払わない。たまたま近くを飛び回る個体があっても、巣を認めて接近するということはついぞ起きない。


 その後、日没までの数時間くりかえし覗いてみたが、25匹ほども集まったハチはほとんどその場を動かない。物干し竿で軽く触れても、1~2匹が弱々しく飛び立つぐらいで、つい先刻まで巣を犯すものに示した猛々しい反応はもはや見られない。魂を抜かれてしまったようであり、事実、彼らを駆り立てる唯一の原因 ー いわば彼らの魂が取り去られているのである。闘う理由を奪われた戦士たち、歴史の一日を思い起こしたりもし、いつになく申し訳ない後味の悪さが後を引いた。
 いっそ殺虫剤を使えばよかったかと、初めて感じた次第。

Ω