2023年1月1日(日)
新しき年の初めの初春の 今日降る雪のいやしけ吉事
大伴家持
(万葉集 巻二十)
万葉集の編纂にあたったとされる家持が、全巻の最後に置いたのがこの歌である。世界史上の快挙ともいえる歌集を編むにあたり、古代の歌人が読み手としてどの範囲の誰を想定していたかわからないが、千二百年を経た今日の耳目には世に遍(あまね)く祝福を贈るものと感じられる。少なくともそのように読むことは許されるのではないか。「籠(こ)もよ み籠持ち」でおおらかに始まり、「いやしけ吉事」と晴れやかに歌い放つ、4516首の全体が後世に向けた祝福のパッケージである。
これと正反対なのが最近のこの国の政治的決断で、科学的裏づけを欠いたゲンパツ回帰といい、金額・財源を先に決めて中身は後からという倒錯した防衛力増強といい、歯止めを失った国債乱発といい、現在の帳尻を合わせるために後世にツケを丸投げする発想がもはや隠れもない。
自分などはもう二十年もすれば消えるのだから実害も知れているが、子や孫が長きにわたってどんな苦労をするかと思うと、実に情けなく申し訳ない気持ちになってくる。降り積む雪は吉事どころか「いやしき凶事(まがごと)」を暗示するが如くである。
降り積む雪に引っかけていきなり愚痴ってみたものの、実のところ中予の新春に雪はない。その代わりブンタン、レモン、ハッサクに甘夏といった柑橘類が樹上で金色に輝き、日陰のマンリョウと日向のピラカンサが鈴生りの実の赤さを競っている。2021年の夏から刈り込みを控えて伸ばしたロウバイが、二度目の正月で頭上の枝一面に開花した。さっそく写真を示そうとしたところ、SDカードの不調で画像が取り出せない!
何てことだ、こいつは春から…
Ω