Dutch Life 備忘録

オランダのミュージアム、コンサート、レストランなどについて記録するノート。日常的な雑記も…。

本「忘れられた日本人」

2011-10-11 10:20:40 | Book
宮本常一著「忘れられた日本人」を読了。
この本は岩波文庫ですが、1960年に未来社から発行されたものを底本としています。
宮本常一は有名な民俗学者ですが、恥ずかしながら私はこの本を手にするまで知りませんでした。
民俗学では柳田國男がずば抜けて有名で、宮本常一は同世代人でありながら、柳田が好まないテーマの性、漂流民、被差別民、西日本と東日本の違いなどに注目したため、あまり高く評価されてこなかったそうです。しかし、1981年に亡くなった後、再評価されています。この岩波文庫も1984年に第1刷が発行されています。
彼は、村を歩き回って、フィールドワークで、いろいろな人から聞きためた事柄をまとめています。昭和の戦前から戦後にかけて、そのフィールドワークは行なわれているのですが、聞いている話は、明治から大正、そして昭和の戦争後までにわたり、その間、農村や漁村がどのように変化していったかがよくわかります。
この頃は、文字を読み書きできる人は少なく、語りによってのみ、ふつうの民の姿が伝えられうるのです。そして、その語りを文字にして残す、民俗学者は貴重な存在でした。現在は、みんなブロクなど書いて、自分の生活を残していますから、後世において、この時代にどんな生活を人々がしていたか知るのはたやすいことでしょう。
本の語り口から、著者が名誉などとは頓着せずに、ただただ歩き回り、人と合い、話をきき、地に足を着け、土地を愛し、村を愛し、骨身を惜しまず、かっといって献身しているなんて意識はもたずに生きている人々を愛し、敬意を持ちながら接していることを感じます。
この本では、東日本の話も少しでてきますが、大半は西日本、対馬、土佐、伊予、山口県などの話です。そこで出会った老人の話を、著者がその語り口のまま書いているのですが、時折、方言か何かでわかりにくいところはカッコ書きで標準語が補ってあります。私の祖父母は中部地方の田舎に住んでいましたが、そこで聞き覚えた言い回しと類似するものがかなり多く、昔の田舎の人の言葉って似ていたのかなと思いました。
それにしても、明治の頃の粟や稗を食べなくてはいけなかったり、食べ物がないために子どもを農家にあずけたりしなくてはいけない時代から、この現代まで、ほんとうにすごく変化したものです。村に道が通るようになって、道がどんどん良くなって、馬が通り、車が通り…となっていくにつれて、どんどん村が変化し、良くなっていったと村人が語る部分がありますが、現在では、その道がまたインターネットの道となって、変化を呼び込んでいるのでしょう。
この本は、友達が送ってくれた本でした。ふつう自分からは選ばないタイプの本ですが、とても興味深い本で、出会えてよかったです。
体調は良好。